トヨタ自動車ヴェルブリッツ対サントリー・サンゴリアス戦(ラグビー日本選手権SF)。

「ポテンシャルだけで判断するならば,恐らくトップリーグでも最強レベル」。


 表面的に見れば,ポジティブな意味合いを持った評価にも感じます。
 ですが,ヴェルブリッツにとっては高い期待感の裏返しとして,必ずしもポジティブな評価だけを意味しているわけではないようにも思います。


 ひとりひとりの選手が持っているパフォーマンスやポテンシャルは,確かに高いものがある。あるはずなのに,なぜかチームとしてのパフォーマンスへと直結することが少ない。絶対的なストロング・ポイントを持っていると同時に,チームとしての根幹を揺るがしかねないウィーク・ポイントも合わせ持つ。そのために,ウィーク・ポイントを突き続けられると,自分たちから自滅に近い形でゲームの主導権を譲り渡してしまう。
 「あってはならないグレート・アップセット」を昨季演じてしまったのは,早稲田のコーチング・スタッフがヴェルブリッツが持っている脆さを的確に見抜き,その結果をチームに落とし込んでいった結果ではないか。落とし込まれた要素は選手たちによって表現され,その脆さがトリガーとなって,ゲームを決定付けてしまう。恐らく,朽木監督は何に負けたのか,その本質的な部分を意識しただろうと思う。


 ヴェルブリッツが時に見せる脆さの裏にあるものは,恐らくメンタルの不安定性ではないか。そんな印象を持つほどに,このゲームでのヴェルブリッツは安定しきっていた。


 ・・・と言いますか,ヴェルブリッツは本来表現していていいはずのパフォーマンスを見せつけているな,と。


 まず,ボール・キャリアーへのファースト・ディフェンスが鋭いために,必要最低限のバックアップでブレイクダウン・ポイントでの主導権を掌握することができる。FWでパワーを背景とする攻撃を仕掛けるのか,それともBKの展開力を活かした攻撃を仕掛けるか,という選択肢を保持しながら,ゲームを戦っていくことができる。また,ボールを引き出してからの判断が的確であれば,BKの展開力がシッカリと引き出されていく。
 “シークエンス”というと,FWとBKが緊密な連携を保ちながらボールを展開し,相手を揺さぶっていくブレイブルーパスがイメージされるところがありますが,ヴェルブリッツも持っているタレントを最大限に引き出せるならば,同様に“シークエンス”という言葉が当てはまるラグビーが展開できる。そのことをこのゲームは示していたように思います。
 また,このゲームにおいては“スーパーサブ”であり,独特のリズムでBKの攻撃にアクセントを付けることのできるセコベ・レアウェレ選手は投入されずに終わっていますし,攻撃をコントロールするポジションであるSOには広瀬選手に代わって,キューデン・ヴォルテクス戦同様オレニ・アイイ選手が入り,フィニッシャー,そしてプレイス・キッカーとしてヴェルブリッツの準決勝突破に大きく貢献をしています。アイイ選手の戦術眼は,展開力を活かした攻撃という部分で相当ポジティブな効果を生んでいるな,と感じます。


 と,ヴェルブリッツが存分にらしさを表現したゲームという評価をしていいとは思うのですが,あえて厳しい見方をするならば。


 もともと持っているものが低ければ,どんなにモチベーションが高くともこのようなゲームはできない。持っているポテンシャルが高いからこそ,モチベーションという触媒によって,パフォーマンスとして表現することが可能になった。FWとBKのバランス,という部分ではある意味,決勝で対戦するブレイブルーパスと似ている部分があるようにも感じます。それだけに,真正面からぶつかり合う可能性もあるし,相手に生じる隙をどう突くか,という部分で必要以上に慎重な戦いになるかも知れません。少なくとも,モチベーションがぶつかり合うようなゲームになるだろうことは間違いないように思えます。
 ならば,ラグビー日本選手権に限らず,トップリーグにおいても同じような姿勢でゲームに向かっていってほしい。トップリーグでも「優勝候補」とされながら,分水嶺とも表現できるようなゲームを落としている,というのは,ヴェルブリッツの最も大きなウィーク・ポイントが戦術面ではなく,メンタル・マネージメントという部分に求められることを示しているように見えるのです。


 朽木監督に日本選手権というタイトルを。


 この気持ちは大事にしてほしいものだと思うけれど,もっと目の前のタイトルに対して「飢えて」いてほしい。次期指揮官に求められる要素は,戦術面でのマネージメント以上にメンタル・マネージメントでチームを積極的にドライブしていくこと,のように思うのです。


 対して,サンゴリアスは厳しい見方に過ぎるかも知れませんが,いままでのアプローチで行き着ける限界を示してしまったような感じもします。


 緻密なスカウティングによって,対戦クラブが持っている隙を徹底的にあぶり出し,その隙をゲームでは突き続けることで相手のリズムを崩しにかかる。カップ戦を戦うための,清宮監督の方法論は徹底されているような感じです。
 しかし,徹底されているがゆえの問題点もあるような感じがします。


 どうしても,「過去のイメージ」に引き摺られることからは逃れようがない,という部分です。


 たとえば,今回対戦したヴェルブリッツのように,トップリーグでの戦いぶりとはまったく違う,本来持っているはずのポテンシャルをすべて引き出したような戦いを挑んでくるクラブを相手にすると,シッカリと組み上げてきたはずのゲーム・プランが大きな狂いを生じることになる。つまり,本来持っているストロング・ポイントを封じる前提として,抑え込む必要があるはずの相手のウィーク・ポイントが目立たなくなってしまうことで,どういう部分でゲームのリズムをつかむのか,という部分が曖昧なものとなってしまう。
 逆に言えば,ゲームのリズムをつかむもうひとつの前提が落ちていた,ということになりはしないか。
 清宮監督就任前にも感じていたことですが,サントリー・サンゴリアスはひとりひとりの選手が持っているパフォーマンス,ポテンシャルは高いものがあるのだけれど,そのパフォーマンスがシッカリと束ねられているような感じが薄かった。
 その束ね上げられていないひとりひとりの選手,彼らが持っているイメージをひとつのものへと仕上げていくことに清宮監督は「一定程度」成功したとは言えるはずです。レギュラー・シーズンを2位で終え,マイクロソフトカップでも準優勝になっている。
 ですが,「勝ちきれない」という部分は,サントリーとしての主戦兵器(=拠って立つべきストロング・ポイント)は何なのか,という部分での強みをまだ構築する段階にある,ということを示してもいるように思うのです。相手の強みを消し去るだけでなく,自分の強みを徹底して押し出していく。
 いまは,チームとしてのバランスが結果重視,それゆえに相手の強みを消し去りながらリズムをつかむ,という部分に傾斜しているような感じもする。そのバランスが,自分たちの強みを押し出していくという部分も考慮されたものへと整っていけば,狙う高みにはさらに近づけるのではないか,という感じもします。