九州電力キューデン・ヴォルテクス対トヨタ自動車ヴェルブリッツ戦(日本選手権2回戦)。

2季連続の“アップセット”はプライドに賭けて許さない。


 そんなチームとしての意識が,前半の戦いぶりには表われていたのかな,と。
 特にBKにとっては良い攻撃イメージを構築できたのではないか,と感じます。ですが,サンゴリアスとの準決勝を視野に入れ,さらに選手権制覇を射程に収めるのであれば,「圧勝」の影に隠れた部分を意識しておくべきかな,とも思うのです。


 ということで,ラグビー日本選手権2回戦の第1ゲーム,九州電力キューデン・ヴォルテクストヨタ自動車ヴェルブリッツ戦であります。


 秩父宮が「中立地」ということを感じさせる雰囲気ではありましたが,ヴォルテクスを応援するひとたちも比較的多く,期待の高さを感じさせるものがありました。それだけ,昨季のインパクトは大きかったということになるでしょうか。
 ですが,例外的な事態だからこそ“アップセット”という言葉になるわけでして。今季のヴェルブリッツには,そんな「例外的な事態」を呼び込むような隙は,少なくとも前半には見当たりませんでした。
 それよりも,“チャレンジャー”が果たして誰だったのか。ヴォルテクスよりもヴェルブリッツの方がチャレンジャーという言葉に相応しいようなゲームへの入り方をしていた,という部分は,ヴォルテクスが2007〜08シーズンから参戦するトップリーグでクリアすべき課題を示しているようにも感じるのです。


 まず,ヴェルブリッツのことから書いていくことにしますと。


 理想的,と言うべきゲームへの入り方ではなかったかと思います。


 BKが持っている展開力を存分に生かし,キューデン・ディフェンスを徹底的に揺さぶっていく。ボール・ホルダーへの反応が甘く,ブレイクダウンでの激しさでもそれほど脅威を感じないという部分を見切ったかのように,ディフェンス・ラインを切り裂きながら縦へ鋭い突破を仕掛けていく。
 実質的には,前半20分前後でゲームは決定付けられたと言って良いほどに,ヴェルブリッツヴォルテクスの実力差は歴然としていたような感じです。


 それだけに,後半の課題は意識しておくべきかな,と思うのです。


 チームとして明確にスローダウンするという意図があったのか,それとも1週間後のSFに向けて主力選手のコンディショニングを意識してか,戦術交代がかなりあったことによって,チームとしての戦い方に微妙なズレを生じたことはちょっと気になるところです。
 確かに,ほぼ前半でゲームを決定付けたのは間違いないところですし,後半ではリザーブの選手たちを積極的に使って,主力選手のコンディションを落とすことなく次戦へ備える,という部分も理解できます。ですが,このような用兵術は,ファースト・チームとリザーブの選手たちとで「戦術理解度」に対する温度差がほぼゼロに近い,ということや,コーチング・スタッフが持っている戦術的な意図がフィールドで戦っている選手たちに明確に伝わるような形での戦術交代だったか,という部分に大きく関わっているような感じがします。
 前半と比較して,キューデン・ヴォルテクスが積極的に仕掛けてきているわけですから,当然それだけの「隙」も生じるはずです。そこで,基本的なアイディアとしては大ざっぱに見て2通りあるはずです。ヴォルテクスの攻撃を受け止めながら効果的にカウンター・アタックを仕掛けていく,というものがひとつであり,もうひとつは前半のスタイルを大きく変更することなくリズムを掌握したままにゲームをクローズするというものです。
 戦い方を変化させるというのであれば,その意図を明確にフィールドへと伝えていく必要があるし,選手たちが直感的に戦術を切り替えるきっかけとなる戦術交代でなければならない。ヴェルブリッツの戦い方が微妙にズレを見せた,という部分は圧倒的なリードを築いていればこそ,の課題かも知れませんが,この課題がサンゴリアスを前に表面化するようなことがあれば,その隙を彼らは間違いなく突いてくる。


 圧勝という結果,その裏にあるような細かいことですが,選手権を制覇するにはクリアしておくべき課題のようにも感じられます。


 対して,ヴォルテクスについての印象を書いていきますと。


 まず,ゲームに入るにあたって“トップリーグ”という姿をあまりに大きく描いてはいなかったか,という部分を感じます。どう考えても,ヴォルテクスがチャレンジャーであり,もっと積極的に自分たちのラグビー・スタイルを真正面からヴェルブリッツにぶつけていくことが必要だったはずです。ゲーム・マネージメントとして,「負けないラグビー」を意識するのはおかしくないと思うけれど,立ち上がりの時間帯からこの意識に縛られてしまうと,攻撃的な姿勢を奪ってしまいかねない。
 “スピード”という部分を取り出してみても,ヴォルテクスはひとつひとつのプレーに確認作業を付け加えているような感じがあった。ひとつひとつのプレーに対する確信と連動性が薄いために,チーム全体からスピードが失われていく。加えて,トップリーグの有力クラブと対戦している,という意識がさらにスピード感を奪っていく。


 そんな状況を見透かすかのように,立ち上がりの時間帯からゲームのリズムを掌握していく,という強い姿勢を見せていたのはヴェルブリッツでした。これでは,ヴェルブリッツの猛攻にさらされたとしても仕方ない部分がある。


 また,風下エンドを取った時点で,ヴェルブリッツの攻勢にさらされるだろうことは,ある程度想定できたところでしょうけれど,それ以上にディフェンスに大きな問題を抱えていることが明確になってしまったな,という感じです。
 ヴェルブリッツはディフェンス・ラインに生じているクラックを見逃がすことがなかった。また,クラックを徹底的に広げようと意識して“スピード”を生かした攻撃を仕掛けていました。そのスピードに対して,ヴォルテクスはほとんど対応できずにいたような印象が残っています。


 攻撃面では,特に前半においては22mライン付近にあまりに強固な壁が構築されているかのような印象がありました。激しく,同時に安定しているヴェルブリッツのディフェンス・ラインに対して,ヴォルテクスの攻撃アイディアは単調なものだったように感じます。


 ・・・ヴォルテクスにとっては,課題が噴出するような形での今季最終戦になったかと思います。
 一方では,チーム・マネージメントに対する部分での問題点も感じます。
 確かにポテンシャルやパフォーマンスの部分でヴェルブリッツには互角に勝負を挑むわけにはいかない。それでも,彼らの強みを封じるきっかけのようなものはあるはずです。そのきっかけに対する働きかけがあったか。徹底したスカウティングをするなかで,相手に付け入る隙を見出していくというプロセスを重要視すべきだと思うのです。
 加えて言えば,“ヴォルテクス”というクラブが持っているスタイルのようなものが感じられる時間帯がほとんどなかった。FW,BKのどちらにウェイトがより多くかかっているのか,など基本的な部分が見えていれば,そのストロング・ポイントを徹底して押し出していく,という方向性も見出しやすいのですが,ヴェルブリッツを前にしたヴォルテクスはどこか,萎縮しているようにも見えた。


 相手に対する敬意は当然必要です。ですが,必要以上に恐れてはいけない。


 考えようかも知れませんが,この2回戦がヴォルテクスにとっての良い「きっかけ」になればいい。そんなことを思ったりします。