ガンナーズとラピッズ。

ガンナーズにしてみれば,フットボール・ビジネスとしての計算が働かなかったはずはない。


 ただ,アメリカが持っているだろう潜在能力を考えれば,メリットはガンナーズよりもコロラド・ラピッズにとって大きいのではないか,と考えています。ということで,「欧州版」というカテゴリ分けには微妙なものを感じますが, Arsenal enter partnership with Colorado Rapids(Arsenal.com・英語表記)というリリースをもとにちょっと短く。


 レアル・マドリーマンチェスター・ユナイテッドの“ツアー”を見ればカンタンに理解できるところですが,フットボール・ビジネスにとっても「市場」開拓は重要な要素です。TVという存在を考えれば,自分たちの本拠地であるスペインであったり,イングランドでの全国区的な人気を超えて,世界的な認知度を獲得することによって,ビジネスを拡大したい,という意図は比較的実現しやすくなっていますし,レプリカ・ユニフォームなどに代表されるマーチャンダイジングを考えても,本拠地以外での活動をすることでマーケットを広げていく,という発想があったとしてもおかしくはありません。


 で,レアルにせよマンUにせよ,視線は「アジア」方向へと向けられていた。マーチャンダイジングであったり,マーケティング戦略が強く意識されていたからでしょう。


 ガンナーズは,恐らく彼らのビジネスを見ながら,方向性を見定めていたのではないでしょうか。


 マーチャンダイジングマーケティングを全面的に無視するわけにはいきません。その意味で,一定程度以上の市場規模があるところを意識することは当然の前提です。ただ,後発ならば「その先」も見据えておいていいはずです。潜在的フットボール・ネイションとなり得る素地をすでに持っていて,スポーツ全般に対する理解が深い国を相手にパートナーシップを締結できるならば,ビジネスだけに限定されない効果が生まれるはずです。ケースによっては,アメリカから有望な選手を獲得するルートを確立するなど,“フットボール”そのものに直結するメリットも生まれるのではないか。そんな思考回路があったように思うのです。


 対して,ラピッズにとってもこのパートナーシップは大きな意味を持つはずです。


 アメリカとフットボールというのは,まだ直線的に結び付かない感じがありますが,潜在的にはフットボール・ネイションに肩を並べられるだけのモノを持っていると感じます。MLBやNFL,あるいはNBAであったりトラック&フィールドに流れている才能がちょっとでもフットボールへと来ることがあれば,飛躍的にフットボールのレベルが引き上げられる,かも知れない。そのときに,シッカリと練り上げられたコーチング・メソッドであったり,強固なアカデミー組織があるかどうか,というのは結構大きな要素になります。そのときに,参考にすべきはやはり,フットボール・ネイションで戦っているクラブでしょう。アーセナルはアーセンが就任して以降,クラブ組織が洗練されたと聞きます。フレンチ・スタイルの育成・強化体制と,マンチェスターリヴァプール的な“アカデミー”の良さを巧みに掛け合わせたようなスタイルへと変化させているのだとか。もちろん,トレーニング・グラウンドなどの“ハードウェア”にも,参考にすべき部分は多いでしょう。


 このようなことを考えると,確かに「戦略的なパートナーシップ」という表現を使うべきかも知れません。「提携」という言葉には,どこかで「主従関係(利用する側と利用される側が比較的明確に分かってしまう関係,と言うべきでしょうか)」があるようにも感じます。今回の提携を見ていると,ガンナーズ,ラピッズ双方が巧く「使い使われる」関係を構築していきそうな感じがするわけです。