マイクロソフト・カップ(決勝戦・短信)。

サンゴリアスにしてみれば,「悪夢」としか表現しようのない時間帯だったかと。


 ですが,この悪夢を作り出したものは,戦術的な部分だけではちょっと説明できないところにありそうな気がします。


 ということで,今回はトップリーグ・チャンピオンを決めるプレーオフ・トーナメントである,マイクロソフトカップ(決勝戦)を短めに扱っていこうかと思います。


 決勝戦に駒を進めてきたサンゴリアスブレイブルーパスを単純に戦術的な側面から見れば,サンゴリアスのゲーム・プランは綿密に練り上げられたものだな,と感じます。
 最も分かりやすかったのが,ラインアウト対策であります。ブレイブルーパスにしてみれば,ラインアウトからしっかりとボールをコントロールするなかから攻撃の選択肢を確保する,という部分が攻撃リズムを構築するには重要な要素であるはずなのですが,サンゴリアスラインアウトで徹底したプレッシャーを掛け与え,マイボール・ラインアウト獲得率を大幅に低下させることに成功する。前半終了時点でのスコアは7−7のイーブンだったのですが,ゲームの流れを見ると,サンゴリアスが描いたゲーム・プランに沿っていた時間帯が多かったような印象があります。


 しかし,(当然のことですが)戦術だけでゲームを決定付ける要素ではない,と感じさせるのが,“ショートハンド”の時間帯です。そして,ゲームの帰趨を結果的に左右したのが,この10分間だろうと感じます。


 後半,バツベイ選手がボール・ホルダーに対して首にかかるようなハイタックルを仕掛け,シンビン(時間退場処分)になります。
 ブレイブルーパスにしてみれば,スクラムを100%の状態で組むことができないばかりか,攻撃において破壊力を持ったキー・プレイヤーを欠く状況ですから,表面的にはかなり厳しい状況に追い込まれたように見えます。ですが,実際にはサンゴリアスは“ショートハンド”の状況を得点へと直結させることができなかった。FWの破壊力,機動力を大きく減退させているはずの相手を攻略すべく,ラッシュを仕掛けると言うよりも,むしろブレイブルーパスが自分たちのリズムを取り戻す,そのきっかけとなる時間帯になってしまったような印象があります。


 確かに,追加点をPGによって奪ってはいるのだけれど,追撃を完全に振り切っていく,という強引さというか,凄みのようなものまでをサンゴリアスにはなかなか感じられないところがありました。
 逆に,ブレイブルーパスはギリギリの時間帯にまで,自分たちがやってきたラグビー・スタイルに対する絶対の自信を持っているような感じがしました。ロスタイムでのトライ・ゲッターがシンビンを受けたバツベイ選手であり,その直前のプレーがドライヴィング・モールであったことは,決して偶然ではないと思います。
 「勝者のメンタリティ」と言ってしまえばそこまでですが,ファイナル・スコアでの「1点差」を作り出したものは,戦術的な裏付けだけでなく,メンタル・タフネス,その裏にあるものも複雑に絡み合っているような感じがします。


 恐らく,ひとつひとつを取り出せば,「僅差」以外に表現しようがないかと感じます。


 しかし,この僅差を積み重ねていくと,ゲームを左右しかねない時間帯において,先行を許している相手に対して逆転を仕掛けることもできる。薫田監督が構築してきたチーム,その大きな要素となっているのは局面ごとのシークエンスに代表される戦術的な部分や,選手ひとりひとりのフィジカルだけでなく,ひとりひとりが持っている意識をチームとしての明確な意識へと束ねていける,その過程にあるのではないか,と感じるのです。