優先させるべきは。

「Number」誌,その巻末近くに,“SCORE CARD”というショート・コラムを集めたセクションがあります。


 このセクションで,ラグビーフットボールのコラムを担当されているのが,大友信彦さんです。671号でのコラム・タイトルは「降格をめぐる戦いに思う、勝負の理想と現実。」であります。


 トップリーグにも降格制度はあって,2006〜07シーズンにあっては最下位(14位)と13位のクラブが自動的に地域リーグへと降格,11位と12位のクラブが入替戦に回るシステムを採用しています。大友さんが取材したのはトップリーグ最終節,日本IBMビッグブルーセコム・ラガッツの対戦であります。このゲーム,どちらが自動降格圏に突き落とされるかが決まる,非常に厳しいゲームだったわけです。


 となると,この最終節に臨むクラブにとってのファースト・プライオリティは,どう設定されるのか。


 当然,第12節までのリーグ・テーブルによって違ってくるはずです。


 自動降格圏に足を踏み入れているクラブは,当然「勝利」のみを意識する。どうあろうとも,攻め抜くことだけを意識するはずです。最終節を迎えるビッグブルーの立場は,このようなものだったのではないでしょうか。対して,入替戦圏内に踏みとどまっているラガッツは,巧く追撃を振り切ることを相対的に強く意識するはずです。無理に攻め込むことでバランスを崩し,相手につけ込まれる必要などないのですから。ある意味,積極的に「ゲームを壊しにかかる」ことだって視野に入れておく必要がある。何よりも,ドローでも入替戦圏内に踏みとどまれるのですから,「攻撃的な姿勢を崩さない」ことであったり,「自分たちのスタイルを存分に表現する」ことが最優先項目になるようなゲームではなかったはずです。
 ですが,実際には大友さんも指摘するように,有利であるはずのクラブがゲームを壊しもせず,あまりに愚直に攻撃的な姿勢を貫いてしまう。その結果,ターンオーヴァを食らって,ロスタイムに失点する。その失点は,入替戦圏内にいたクラブが自動降格圏に突き落とされたことを示すものでもあったわけです。


 あえて厳しいことを言うようですが,ラガッツはいささかナイーブに過ぎたのではないか,と思います。勝負にこだわるのであれば,積極的にゲームを壊す覚悟もあってしかるべきだった。大友さんのコラムには,ウェイン・ラブHC(ラガッツ)によるゲーム後の記者会見コメントが紹介されています。引用しますと,

 「ドローでも降格を回避できることは分かっていたのだから、ボールはキープ、キックは必ずタッチへ出す。そう意識することはメンタルタフネスの一部だ」


というものです。フットボールの世界では「何でこんな当然のことを・・・」と言いたくなるような話でありますが,この言葉が新鮮さを持って受け入れられかねない。このことは,ちょっと大きな意味を持っているような感じがするのです。
 ちょっと長くなりましたので,たたませてもらいますと。


 RWCにせよ,国際試合では「結果」が最優先課題になります。


 もちろん,日本としての明確なスタイルは「帰るべき場所」ですし,ひとりひとりのプレイヤーが明確なイメージをシッカリ共有しておく必要がある。特に,ラグビー・ネイションズと互角の勝負を挑もうとするならば,ひとつひとつのプレーが有機的に連携していなければならないし,アジリティや戦術理解度の高さ,という武器を最大限に活用しなければならない。そのためには戦術的なイメージがキッチリと束ね上げられている必要がある。


 ですけれど,このスタイルだけにとらわれていると,「勝負」の側面が落ちてしまうことにもなる。何のための戦術なのか,ということですね。


 そこで意識しておきたいのが,フットボール同様に「基礎構造」となるリーグ戦です。戦術的な部分だけでなく,どうしても負けられないゲームをどのようにして戦っていくか,というシビアな部分をリーグ戦によって培っていけるでしょうか。


 本来,ウェイン・ラブHCがコメントしたことは,皮膚感覚でひとりひとりの選手が理解していて当然の話だと思うのです。でも,ラグビーフットボールの世界では「言葉」の方が先行してしまっている。
 トップリーグを筆頭に各地域リーグ,大学リーグ戦は基本的に1回戦総当たりのリーグ戦で,「勝負のアヤ」が生まれにくいように感じます。言うなれば,カップ戦のようなリーグ戦方式を採用しているデメリットが出ているかな?と感じる部分もあるのです。1回戦総当たりですと,強豪との対戦など,気を抜けない対戦があることは承知していますが,どうしてもカップ戦のように「加速態勢」を早く整えたクラブでありチームが抜け出すことになるように感じます。対戦カードのアヤによって,加速できるクラブと失速を余儀なくされるクラブとに別れ,総合力が本当の意味で問われるわけではない。
 ですが,2回戦総当たりだと,間違いなく「勝ち点4」以上の意味を持つゲームが増えることになります。そのときに,「勝負のアヤ」がクローズ・アップされることになる。あんまり積極的に推奨するわけにはいかないけれど,「高み」を陥れるためには「勝負」の側面を強く意識する必要があるし,そのためにはゲームを壊すこともケースによっては求められる。最もシビアな局面,と言っていいゲームでも,「勝負」に対する意識が希薄であるならば,通常のゲームにあっても戦術眼であったり,勝負勘のようなものが育っていかない恐れがある。それは,最終的にはラグビー日本代表から勝負強さを奪うことになりはしないか。


 普段のリーグ戦が,「勝負」の側面をあまり意識することなく過ぎて,今回のようなゲームになって突然,「勝負」という要素が前面に出てくる。コレでは,実際にフィールドで戦う選手たちに「リアリスティックなゲーム運び」を要求してもちょっと難しいかな?と。


 スケジュール的な問題もありますし,コストの問題もあるに違いない。


 カンタンに解決できる話ではありませんが,2回戦総当たり制を採用するのは,最終的にはラグビー日本代表に対して(比較的大きな)メリットをもたらすのではないか,と感じるのです。