06〜07(第44回)ラグビー日本選手権(1回戦概論)。

早稲田は,“オン・ザ・カム”になるのがちょっと遅かったような感じです。


 恐らく,チームとしてのポテンシャルだけを純粋に取り出してみれば,早稲田は依然として大学勢の中でも「規格外」のポテンシャルを持っているはずです。ただ,そのポテンシャルを最大限に引き出すための「触媒」として機能するはずのモノが,巧く働かなかったのかな,という感じがします。


 対して,九州電力サイドを考えると,この「触媒」が早い段階で機能した,という印象があります。
 トップリーグの下位に位置する地域リーグ(トップ・キュウシュウ)を首位で通過,各地域リーグ首位が総当たり戦を展開するトップ・チャレンジ1で連勝することで,2007〜08シーズンからのトップリーグ昇格を決めた。この流れを選手権へと持ち込んできたな,という感じです。加えて言えば,昨季同じようにトップ・キュウシュウからTL昇格を決めたコカコーラ・ウェストジャパンのように,選手権でもひと暴れしてやろう,という意識が相当強かったのではないか。相手は,大学勢の雄である早稲田。これ以上ない舞台だな,と。


 第44回ラグビー日本選手権(2006〜07シーズン)であります。


 カードはすべてが決定しているわけではないのですが,なぜか始まっております。で,1回戦は大学選手権準優勝チームとトップ・チャレンジ1首位,そして大学選手権優勝チームとクラブ選手権優勝チームとの対戦であります。この組み合わせ,結構なアヤがあるような感じがしますし,2005〜06シーズンの選手権を振り返ってみても,同じような印象があります。


 つまり,昨季の関東学院と,今季の早稲田は少なからず相似形を描いている。また,今季の関東学院と,昨季の早稲田は同じような気流に乗っているような感じもする。ということで,大学サイドからの視点で,ごく大ざっぱに1回戦を見てみよう,と思います。


 早稲田の前任指揮官である清宮さんは,「ストーリー」という言葉をよく使います。


 最初にこの言葉を聞くと,!?という印象なのですが,よく考えてみると納得できるところがあります。モチベーションという言葉を使うと,何となく分かったような気がしますが,実際には意識を持っていく方向性を束ねていくのが難しい。「どういう形でゲームを制するか」というイメージが共有されていないから,ということかも知れません。そこで,イメージを可能な限り現実に近づけることで,ひとりひとりのイメージをひとつのモノへと束ね上げていく。その手助けになるのが「ストーリー」ではないか,と。で,今季を考えると「ストーリー」に微妙な狂いを生じていたような感じがします。


 その狂いが,大学選手権を獲り逃すという形になる。


 タイトルを奪取できなかった,という事実も当然,チームにとっての心理的なダメージとなる。のみならず,日本選手権を考えれば,初戦からトップ・チャレンジ1優勝クラブとのシビアな戦いをしていかなければならないのだから,シッカリとしたメンタル・マネージメントをしていかなければ,立ち上がりを抑え込まれてしまう。相手の高いモチベーションを受けて立つようなことがあれば,そのモチベーションを跳ね返し,自分たちのリズムへと引き戻すための時間が必要となり,結果としてゲームを必要以上に難しくしてしまいかねない。
 早稲田の前半での印象と,後半での印象が違うというのは,恐らくヴォルテクスのモチベーションを跳ね返し,自分たちのプレーを表現するまでに40分プラスという時間がかかってしまった,ということを示しているように思えるのです。
 本来のポテンシャルは,恐らく後半のプレーによって証明できるところでしょう。ですが,その表現できるはずのパフォーマンスを立ち上がりから表現できなくなっている。このことは,タレントが必然的に入れ替わらざるを得ない大学チームにとって,シビアな課題になります。現任指揮官である中竹さんのチーム・マネージメントが本格的に問われることになるのは,来季以降だったりするような感じがします。


 対して,タマリバ・クラブとの対戦となった関東学院ですが。


 言葉は悪いかも知れないけれど,いい形で「加速」できたのではないか,と。ライバルである早稲田大学を退け,大学選手権を奪取したことによって,「達成感」を得たというよりも,昨季の早稲田のようにさらなる可能性を追うためのモチベーションを得たのではないか,と感じます。
 早稲田は昨季,日本選手権初戦において,今季の関東学院と同じくタマリバ・クラブとの対戦を経験,このゲームによって加速態勢を整えると,2回戦ではトップリーグ勢であるヴェルブリッツを撃破する,というアップセットを演じています。
 その早稲田を撃破しただけでは,同じ位置に並んだとは評価されはしない。日本選手権において,関東学院のプレゼンスを示す必要がある。何があろうとも初戦を突破し,2回戦に駒を進める。そして,2回戦でアップセットを演じるかどうかは別として,TL勢を相手に互角以上の勝負を挑む。これができてはじめて,早稲田に並ぶことができる,という意識が相当強かったのではないか。
 とは言え,前半の戦いぶりを見る限りでは,関東学院もタマリバのモチベーションを「受ける」時間帯が多かったようにも感じますし,立ち上がりの早い時間帯から強烈なプレッシャーを掛けてゲームをコントロールするような形ではなかったように感じます。
 ただ,チームとして持っているポテンシャルは,やはり関東学院の方が高かった。彼らの圧力をタマリバは受け止めきれなかったのでしょう,後半にはゲームの流れをほぼ関東学院に掌握されてしまったような感じです。


 関東学院にしてみれば,2回戦は相当厳しいゲームとなるはずです。


 ロー・スコアに抑え込む,という守備を重視する戦略も当然必要となるはずですが,プレッシャーを巧みに得点機へと結びつける意識が徹底され,前半の早い時間帯から先手を打ちに行く姿勢が見えないと,相手のリズムに巻き込まれ,必要以上に消耗を早めてしまう可能性もある。
 どれだけ「相手の隙」を生み出せるのか。勝機は,そんな部分にあるのではないか,と感じます。