国立霞ヶ丘とアウェイ感。

「聖地」という言葉で思い浮かぶ競技場としては,やはり国立霞ヶ丘であり,イングランドびいきとしてはウェンブリーも外せないな,と。


 さて,このウェンブリー,どこにあるかと言えばロンドン近郊であります。


 となると,ロンドンに本拠を構えるフットボール・クラブにとっては“アウェイ・キット”のように身近なスタジアムではないか,と思うところですが,実際にはそうではない。
 かつてアーセナルがハイブリーを本拠地としていた時期,欧州カップ戦では観客収容数の大きなウェンブリーを使ったことがあります。しかし,欧州カップ戦とガンナーズの相性はあまりに悪かった。端的に言ってしまって,ウェンブリーでは結果が出ていなかったわけです。そのときに,ガンナーズを追い掛けているひとたちからは,「観客収容数などには興味はない。そもそもガンナーズのホームはウェンブリーではなく,ハイブリーなんだ」という声が上がったとか。そのため,キャパシティではウェンブリーには当然及ばないハイブリーに戻した,なんてことがありました。


 さて,翻って国立霞ヶ丘であります。


 辻中さんのコラム(MSN毎日インタラクティブ)にもあるように,関西以西のひとにとっては,純然たる「中立地」というよりはむしろ,関東勢が“アウェイ・キット”のように使いこなしているスタジアムに乗り込んでいく,という意識が強いでしょう。また,強力な動員力を誇っているフットボール・クラブが対戦相手であれば,辻中さんが言う「アウェイ感」というのはさらに増幅される,かも知れません。


 となると,
 収容能力と雰囲気を兼備したスタジアムが、関西にもほしい。
という,辻中さんのコラムの結語のような感覚を持つひともいるでしょう。UKに当てはめてみれば,イングランドにおけるウェンブリーと,ウェールズにおけるミレニアム・スタジアム(アームズ・パーク)という関係を日本でも作れないものか,ということかな,と。


 そこで,ちょっと考えてみますと。


 もうひとつの「聖地」は大阪で,と思うひとも多いのではないでしょうか。


 そこで,予算などの実務的な側面をちょっと無視して考えれば,長居公園を全体として徹底的に改修する,という方法論がまずはありそうです。まず,キャパシティ面で国立霞ヶ丘とほぼ同等である,長居スタジアムを関西における中立地として位置付ける。同時に,第2競技場を“サブ・トラック”としての位置付けを崩すことなく,20,000人前後のキャパシティを持った(あとあとの拡張性を持たせた)スタジアムへと段階的に改修する。そして,セレッソのホームとして位置づける,という方法論もある,かも知れません。
 大阪そのものズバリ,ではなく大阪からもほど近いあたり,という条件で考えれば,神戸総合運動公園ユニバー記念競技場(神戸ユニバー)を改修するという方向性もありそうです。そこで,スタジアム・ガイド(Jリーグ・オフィシャル)をみると,2007シーズンにおいては「神戸ユニバー」というクレジットはありません。となると,ヴィッセルさんは神戸ウィングだけを使用する予定で,ユニバーに関してはホーム・スタジアムからは外れそうですから,ユニバーを中立地として位置づけるのが比較的,近道かも知れませんし,案外現実的な落としどころかも,と思います。


 そうは言っても,「聖地」らしく改修するとなれば,スタンドに屋根を掛けたり,防風対策をとったりなどと基本的にFIFAスタンダードに近いことになるでしょうし,同時にIBAFスタンダードをも充足しておく必要が出てくるでしょう。


 また,シャレ半分で言えば,JRFUとJFAが折半で近鉄花園を大改修して,ホントにアームズ・パークかと思うようなスタジアムを作り上げると同時に,JRFUとJFAがそれぞれの関西エリアでのトレーニング・センター機能を集約させる,なんてのも良いかも知れません。


 ですけども,さっきは無視したフィナンシャルな側面を真剣に考えると,どのアイディアも実現可能性が急激に低下するわけです。
 事業予算をどう捻出するのか,という問題をまずクリアしなければなりませんし,作っただけでハイ終わり,ではない。ランニング・コストを考えないといけないわけです。また,本格的な改修を考えれば,フットボールだけで話を進めるわけにはいかない。当然,陸連を含めた競技団体を巻き込んでいく必要が出てくる。シッカリとした外向きの“ポリティクス”が求められるはずです。また地方公共団体だけを事業主体としない,民間をも事業主体として考える「シンジケート」でも組まない限りは,これらの計画を本格的に動かすことは難しい,と言わざるを得ないでしょう。それこそ,どこかの答弁で見聞きするような「前向きに検討(するふりして,実質的にはたなざらし)させていただきます。」というような話になりかねない。


 将来的には,真剣に考えなければならない話だとは思うけれど,すぐに動かせる話でもないように思うのです。そこで,ハードに頼らずにできること,を考えてみようかな,と。


 ごく大ざっぱに言えば,“チケッティング”を考えればいいと思うのです。


 チケットぴあさんとか,イープラスさんのサイトを見ると,Jリーグのホーム・スタジアムには中央から分割線が引かれているかのような錯覚を起こすけれど,実際に分割線が中央に引けるようではダメなのよ。どんなに財政的に魅力があっても,「分割線」が真ん中に引けるようなことをしちゃあ,最終的にはクラブを追いかけるひとは増えないよ,ということを過去に書いたことがあります。
 その分割線,たとえば国立霞ヶ丘だったり,半分シャレで書いた神戸ユニバーの中央にキッチリ描いてしまえば良いのでは?と思うわけです。もちろん,チケッティングを通じてですが。
 実は,この点からも「カップ戦」の過密スケジュールは改善すべきことになるわけです。


 「中立地」であることが求められるゲームというのは,原則的にリーグ戦ではありません。さっきも書いたとおりですね。ホームらしさは,分割線とは相容れるものではないですし。カップ戦の決勝戦,ケースによっては準決勝あたりからでしょうか。
 そのときに,チケッティングを完全にぴあさんとかイープラスさんにお任せするのではなく,ワンクッション置けばいいと思うのです。つまり,ゲームを所管するJFAであったりJリーグが,準決勝,あるいは決勝へと駒を進めたクラブに対してチケットをアロケートしてしまえばいいわけです。当然,50%ずつ。で,JFAやJリーグからアロケートされたチケットについて,各クラブはクラブ独自の販売方法を採用する。なおかつ,互いのホーム・スタジアム以外での開催にする,と。このアイディア,要はイングランドのパクリです。
 実際,FAカップ決勝などはチケットマスター(ぴあのようなもの)のルートにチケットが乗ることはなくて,クラブがチケット販売を直接しているはずです。表面的に見れば,ロンドンに本拠を置くクラブが圧倒的に動員で有利な感じのするウェンブリーが,長く「聖地」としての位置にあり続けられた,というのはカップタイ・ドローを上手く活用してきたことと,このチケッティングがあってのことでしょう。


 たとえば,天皇杯決勝を「元日の風物詩」として,どこが勝ち上がろうとも国立霞ヶ丘に足を運びます,というフットボール・フリークの方にとっては,恐らくイヤなシステム以外の何物でもないでしょう。
 ですが,「ホームらしさ」であったり,「アウェイ感」を意識するようになるほどに,特定のクラブを追いかけるひとが増えてきた,とも言えるのではないでしょうか。


 ただ,カードが確定してからチケッティングを開始することになるから,現状のスケジュールではチケッティングをJFAやJリーグ主導でクラブへと均等配分する,そしてクラブが独自の販売方法を採用するというアイディアほぼ実現不可能なのです。特に,天皇杯の過密ぶりを考えると,この方法はなかなか採用できない。そのときに,「元日決戦」にこだわることで関東勢有利という印象を積み残しにするのか,それともスケジュールまでを真剣に考えることで,国立霞ヶ丘が「聖地」としての位置付けを崩さずに行くのか。
 実は,こだわるべきは「元日」という日付ではなくて,国立霞ヶ丘が持っている,そしてこれからも持ち続けるはずの「聖地としての権威」なのではないか,と思うのです。


 関西にも「聖地」と呼べる存在を,という意見も決して無視できることではない。このことも含めて,真剣に考えるべき時期はもうすぐそこまできているように思うのです。