やるべきこととは。

「速いセッティング」というのと,「好みのセッティング」というのは必ずしも一致しないのだとか。


 もちろん,どんなに速いセッティングであろうとも,実際に乗る人間が操りにくければ,結果として持っているはずの速さは引き出せない。一定程度,「好み」が反映される必要は確かにあります。しかし,好みだけで絶対的な速さが出せるのか,となれば話が違う。レアル・マドリーを見ていると,セッティングがまったく決まらないレーシング・マシンのような印象があります。


 それにしても。


 スポーツ・メディアで“レアル・マドリー”の名前を見ると,ネガティブな記事が続くというのがここ最近の傾向ですね。特別追いかけているわけじゃあない(と言いますか,個人的なお気に入りには“レアル”なんて名前は付いておりませんし。)のですが,何となく気になる存在であります。今回は欧州ネタのそんな話など。


 フットボール・クラブ,しかも「結果」が求められるプロフェッショナルの世界に生きているクラブにあって揺れ動いてはならない大前提は,「チーム」が100%のパフォーマンスを発揮できる環境を常に整えておくことになるのであって,間違っても「好み」でチームのセッティングを変更することではない。ディビッド・ベッカムが2006〜07シーズン終了をもってクラブを離れ,MLSへの移籍を決定したことをもって,チームからの離脱を決定したかのようなことを指揮官は言っていたけれど,そもそも移籍を決定付けたのはレアルにおける位置付けが不明確になったことにあるはず。確かにプレーの幅を広く持っている選手ではなく,チーム戦術に巧く組み込めるかどうか,という部分で難しさを持っているのは否定できない。だとすれば,クラブとしてベッカムに対して投資している部分をほかの部分へと振り向けることも考慮していいし,投資対象を他に求めることを考えても良いはず。そして,コーチング・スタッフもクラブに対して働きかけをすべきところではないか。その努力を放棄して,チーム戦術から考えて必ずしも必要とはされていない選手を「何らかの理由(恐らく,マーケティング的な理由が大きいだろうが)」によって保有し続け,当然の帰結として,コーチング・スタッフはチーム戦術に対して適合性が低い選手という評価を下している以上,どんなに持っているポテンシャルが高く,練習においてプロフェッショナルとして当然の態度を見せていようとも実戦に投入することはない。のみならず,クラブ首脳が公の場において批判的な言動をする。メディアを通じて,間接的に伝わることを意図するかのように。


 ・・・これが,プロフェッショナルとして健全な姿か,と考えると大きな疑問が残ります。


 カルチョメルカートを通じて積極的な補強戦略を繰り返し,この補強戦略とクラブのマーケティング戦略を強固に結び付けることによってクラブ財政を一気に立て直したのは,フロレンティーノ・ペレス会長の手腕という見方もあるでしょう。ですが,ファースト・チームをどのように組み立てるのか,というビジョンなしにクラブの中核選手を並べ立てるかのような選手構成によって,チームとしての基礎構造が弱体化してしまったような感じがします。この反省に立ってカルデロンカペッロ体制へと移行したはずなのですが,実際を見れば「銀河系軍団」の呪縛がいまだ解けていないのではないか?と思うところもあります。


 彼らが最優先でやるべきこととは,「言葉」を通じて保有選手を批判したり,自らの好みによって帯同メンバーを選ぶことなどではなく,レアル・マドリーが目指すべきファースト・チームの姿とはどういうものか,そのために必要とされる戦力はどういうものかということを冷静に見極め,そのためにできることを積み重ねていくこと以外にないような気がします。