見習うべきは。

純然たるアウトサイダーから見れば,「ガキのケンカ」のようなものであります。


 今回は,ちょっとお気楽なエントリを書いていこうかな,と。


 1990年代後半からのプレミアシップが主戦場でありました,と言えば,これが何のことかおわかりの方も多いのではないでしょうか。ハイブリーのマネジャーであるアーセン・ヴェンゲルと,オールド・トラフォードのボス,アレックス・ファーガソンとの間で展開される「口撃」ですね。最近では,この関係にスタンフォード・ブリッジのヘッドコーチ,ジョゼ・モウリーニョが割って入ることもあるけれど。


 ジョゼに関してみれば,もともとかなりのビッグ・マウスなひとですし,意図的に挑発的な言動を用いているように見えることからも,「稀代の役者」という感じもします。そして,この印象はアーセンにも感じるところです。自分ところの選手が激しくやられると,猛烈な反応を示すのだけれど,逆の立場になると途端に静かになってしまう。


 ですが,ファーガソンさんを見ていると,このひとは少なくとも役者ではなさそうです。


 ベッカムの時にも感じたことですが,「雷オヤジのごく自然な感情の発露」がもともとのようです。どっちが仕掛けた,仕掛けられたは正確な記憶がないのですが,ヴェンゲルさんの過剰反応に対して「瞬間湯沸器」的に反応したという感じもあるでしょう。また,その雷オヤジ的な反応が相手を過度に刺激してしまったことで,舌戦が恒例行事化してしまったのではないでしょうか。


 すっかり風物詩と化したおかげで,逆に妙に静かなマッチデイ前だと「何があるんだろう!?」なんて考えるひともいるかも知れません。


 しかし,このひとたち,舌戦を展開するというだけが共通項ではありませんで。


 いわゆる,“24時間フットボールのことを考えているひと”であります。クラブ・ワールドカップが行われた横浜国際ではイビツァさんとギドが隣り合って,お互いのフットボール観をぶつけ合っていたようでありますが,そんなタイプでもあるようです。モウリーニョさんにしても,ヴェンゲルさんにしても研究熱心ですし,ファーガソンさんは監督室に朝早くから詰めて情報収集にあたるとか。逆に,そうでもなければ20年も同じクラブを率いることはできませんよね。確か,岡田さんでしたか,監督としての引き出しがなくなるのはだいたい3年くらい,なんてことを言っていたように記憶していますが,このひとたちはアウトプットと同時にそれ以上のインプットを繰り返しているのでしょう。だからこそ,長期政権を維持することが可能になっているのだろうと。


 そんなひとたちの間で,フットボールに対する熱意の発露として舌戦が展開されるのであれば,「恒例行事」になろうとどうなろうとウェルカム,なのです。


 ・・・ここまで書けば,何を意識して書いているかお分かりか,と。


 こちらはまだ指揮官が正式に着任していない段階ですし,エンターテインメントにあふれる舌戦を展開しようにも展開しようがないわけでして。これがたとえば,飛田給での対戦を2週間後に控えたあたりの時期ならば,スポーツ・メディアの取り上げ方もイングランド並みになった,かも知れません(保証の限りではないですけど)。あのエキセントリックなモウリーニョさんだって,シーズン・インを目前にしようかという段階でのビッグ・マウスは,「リーグ・チャンプに上り詰めてやる」とかいう方向性ですしね。欧州のフットボール・シーンにも詳しい・・・,と言いますか,リーガ・エスパニョーラ・フリークと言うべきかも知れないひとですが,見習うべきはこのひとたちの「口撃」的な側面ではなくて,マジメなフットボール・コーチとしての側面だと思いますよ。


 ・・・それにしても。原さんは「屈折した愛情」を持っていると言うか何と言うか。


 ことさら指摘されずとも,“リアリスティック”なのは承知しているところでしてね。でも,フットボールという競技はリアリズムの側面を軽視してはいけないとも思うのですよ。


 要は,バランスだと。


 どこまでリアリスティックな姿勢を貫くかにはじまり,どこまで個人ベースの即興性を引き出すか,その即興性を支えるための戦術的なバインドをどこまで掛けるのか,という微妙なバランスを意識することで,チームはスペクタクル性と厳然たる結果を追い掛けられるのではないか,と。その点,2007シーズンの浦和は戦術的なバインドを掛けていく方向性でしょうね。個人ベースの即興性を安定して引き出す,という観点のもとに,イマジネーションの方向性を整えておくと言いますか。ご心配には及びませんよ,と。


 むしろですね。


 “ダブル・アウトサイド”を主戦兵器とする,縦方向に素速い攻撃を仕掛けるスタイルからどういう進化の方向性を見せるのか,なんて方がハッキリ言って興味があります。「引き出しは増えたのか?」ということですね。「原点回帰」などと言いながら,フルコート・カウンターを狙うかのような“攻撃的フットボール”を仕掛けるようならば,見習っていたのは「口撃」的な側面だけということになる。2007シーズンの興味が増えた,という部分に関して「だけ」は,感謝すべきかも知れませんがね。