持っている(かも知れない)潜在能力。

不思議なことに,もともとジャンルを切り拓いたと言っていいはずのGMさんは,現在タマを持っておりませんが,フォードやクライスラーを見ると,シッカリとラインアップに収まっております。


 “ミニバン”ですね。


 そんなミニバンでありますが,アメリカではサッカーと分かちがたく結びついているのだとか。


 子どもをサッカー・スクールへと送り迎えするときの重要なアシ,それがミニバンであり,そのハンドルを握っているのは彼らであったり彼女たちの母親だったりする。となれば,送り迎えするだけで終わるはずもなく,フェンス越しに自分の子どものプレーを真剣に眺めている。だけでなくて,ケースによっては大騒ぎ,と。“サッカー・ママ”という言葉が生まれる背景であります。


 “アメリカ”と聞いて,フットボール・ネイションズのひとつと考えるひとはいないでしょう。


 同じアメリカでも“セントラル”とか,“サウス”という言葉がアメリカの前に付かないと,フットボール・ネイションズという意識にはなりません。また,同じフットボールであれば,攻守がヒジョーにハッキリと分かれていて,戦術的に緻密な一方で猛烈に激しいフィジカル・コンタクトもある競技,アメリカン・フットボールNFL)の人気の方が圧倒的に高くもある。さらに言ってしまえば,プレーのスピーディさで見ればバスケットボール(NBA)やアイスホッケー(NHL)の方が分かりやすい,というアメリカンは多いでしょう。


 ついでに言えば,日本代表がアメリカ遠征の際に,ベニューとして指定されたのはサンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地(つまりは“ボール・パーク”)ですからね。環境面から見ても,フットボールが冷遇されているのではないか,と勘繰ってしまう余地があるのは確かです。フットボールアソシエーション・フットボール)という競技がなかなか認知されてないのでは?なんて思ってしまう材料には事欠かないわけです。


 ただ,そうとも言っていられないような感じがします。


 今回は,ちょっと蹴球事情的にベッカムさんの移籍とMLSのことを絡めて書いていこうかな,と思います。でありますれば,ちょっとたたませていただきますと。


 基本的にアメリカン・スポーツは,「戦力均衡」という発想が基盤となっているために,FAを認める一方で新規獲得選手はドラフトによって獲得,という形になっています。さらに,MLBでは導入されていないものの,サラリー・キャップ(年俸総額制限)をかけてクラブ経営を圧迫しないような方策がとられています。


 MLSにおいても,例外ではありません。新規獲得選手はウェーバー制のドラフトによって,各クラブに振り分けられていくことになります。


 ただし,高い能力を持った選手を招聘するにはサラリー・キャップ制が大きな障壁にもなってしまうわけです。そこで,MLSサイドは試験的に「特別選手指名制度」という考え方を持ち込んだわけです。各クラブに1人まで,サラリー・キャップを適用しない選手が獲得可能,というものであります。もちろん,一義的にはクラブ戦力を引き上げることが目的になるでしょうが,もうちょっと細かく見ていけば,アメリカのフットボール,そのレベルを大きく引き上げていきたいという意識も働いているように感じます。


 そこで,不思議に思ったのは「なぜ,ベッカム・サイドはロサンゼルス・ギャラクシーというクラブを選んだのか」ということです。フツーに考えれば,MLSで強豪としての位置を占めているDCユナイテッドあたりを選びそうなものです。ロサンゼルスは西地区5位でしかない。


 そこで謎解きになりそうのが,冒頭に書いた“サッカー・ママ”の存在のように感じるのです。


 ベッカム選手がサッカー・スクールをアメリカに立ち上げた,という話があったかと。そのサッカー・スクール(どうやら,ディビッド・ベッカム・アカデミーという名称のようです。)が置かれているのは,“ホーム・デポ・センター”(カリフォルニア州カーソン)というスポーツ複合施設であります。ホーム・デポ・センターの施設詳細(オフィシャル・サイト・英語)に関するページを見ていくと,興味深いことが見えてきます。


 ベッカムがアカデミーを置いている施設は,同時にロサンゼルス・ギャラクシーのホーム・スタジアムとして位置づけられているだけでなく,アメリカ・サッカー協会の拠点でもある,ということです。ベッカムは移籍に関してのコメントで,「アメリカのサッカーを変えたい」というニュアンスの発言をしていたようにこちらの記事(日刊スポーツ)では書かれています。恐らくこのコメントは,アメリカでクラブ・マネージメントに限りなく近い部分を担っていきたいという意識も働いているからではないでしょうか。


 そして,MLSやアメリカのサッカー関係者はこのベッカムの決断を,ひとつの大きなきっかけにしようとしているのではないでしょうか。アスリートとして高い能力を持っている子どもたちは,基本的にメジャー・スポーツに引っ張られていったはずです。その流れをアカデミーによって引き寄せ,さらに才能ある選手をプロフェッショナルへと引き上げていく。それは当然,ナショナル・チームを強化することにもつながっていく。


 短期で分かりやすい成果が上がる話ではありませんが,少なくとも持っている潜在能力を高めるとは言えるはずです。ベッカムのチャレンジは,さまざまな意味で興味深いものになりそうです。