「銀河系軍団」の結語。

やはりモダン・フットボールにあっては,ちょっと異質な感じがしますね。


 ごく大ざっぱに言えば,ひとりひとりのフットボーラーが持っているポテンシャルやパフォーマンスを,フットボールが持っている攻撃面での魅力に徹底して振り向けていくようなクラブ戦略を端的に示す単語が,「銀河系軍団」というものではなかったかな,と感じます。


 「攻撃は最大の防御」。確かに,その通りだなと感じる部分もあります。


 であれば,攻撃を最優先にチームを構築してもおかしくはない。その通りでもあります。ですが,90分プラスの時間帯,攻撃し続けていられるでしょうか。あり得ないはずです。そもそも,ボール・ポゼッションが100%なんてことがあり得ないのですから。


 となれば,どうしても「どう相手からボールを奪うのか」という戦術イメージが必要になるし,このイメージがピッチに立っている選手の間でズレてはならない。戦術的なバインドが必要になる部分だと思うのですが,この点についてレアル・マドリーは明確さを欠いていたし,そもそもフロレンティーノ・ペレスがマーケティング主導で獲得してきた選手たちの技術は攻撃面に偏重していて,ボール奪取に向けた技術を持っている選手たちは軽視された。つまり,攻守におけるプライマリー・バランスが崩れたチームだったということになる。また,ひとりひとりが強烈な個性を持っていた。そのために,ペレス時代の各指揮官はこのチームに戦術的なバインドを有効に掛ける術を持たずに終わってしまった。


 攻撃面だけに限定して言えば,チームとして持っている潜在能力は低かろうはずもないのだけれど,その潜在能力を実際にピッチで表現するにあたって,「安定性」を欠いてしまった。そして,「安定性」は守備面に直結するものでもあり,リーグ戦を戦っていくにあたっての重要な要素でもある。チャンピオンズ・カップマイスター・シャーレを掲げることができなかったのも,仕方がなかった部分があるような気がします。


 即興的な美しさよりも,高度な機能美のようなものにひかれてしまう,個人的な好みもあるのでしょうけど,当時のレアル・マドリーというのは(反面教師的ではあったにせよ)興味深い存在ではありました。


 で,「銀河系軍団」がホントに終わりだな,というのを実感するような話であります。共同通信から配信されたこちらの速報記事(サンスポ)にあるように,ディビッド・ベッカム選手の移籍によって,レアル・マドリーはちょっと異質だったフットボールから,相当現実主義的なフットボールへと本格的に移行するな,と感じます。


 イタリアンな指揮官諸氏は,概してかなり強めの戦術的なバインドを掛けているような感じですし,現実主義的なフットボールを意識しているところがあると感じます。トラパットーニさんにしても,リッピさんにしても攻撃的な部分に多くのウェイトを置くバランスを好む,と言うよりも,守備的な部分にウェイトを振り向けているような感じです。そして,現任指揮官のカペッロさんもこの路線に乗っているのは間違いないところではないか,と。


 となれば,ユーヴェから連れてきた選手たちはやり方をよく知っているし,重用するのも道理。さらに言えば,ボール奪取を大前提にしてチーム戦術を組み立てるとすれば,フィニッシュに近い段階でないとその能力を最大限に引き出しにくいベッカム選手は,なかなか組み込みにくいのではないか。


 ちょっとベッカム選手の特徴を大づかみにしてみると。


 いわゆる“ファンタジスタ”というわけではないけれど,実質的な部分を考えれば限りなく近い存在だったりする。また,フィニッシャーと言うよりも,フィニッシャーを生かすための選手でもある。それだけに,右サイドの印象は強いのだけれど,アウトサイドのように激しい上下動のなかから守備面,攻撃面において貢献するわけでもなく,さりとてウィンガーのように中央へと斜めに切れ込んでいく動きのなかからシュートを放つ,というイメージが強いわけでもない。高い正確性を持ったクロスと,視野の広さを持った限りなくファンタジスタ的なフットボーラー,という感じになりますか。・・・やはり,イタリアンな指揮官にはちょっと使いづらいタイプのようです。


 移籍に関する話はかなり早い段階からあって,イングランドフットボール情報サイトでは「引退」までを選択肢に含めたアンケートもあったくらいです。その選択肢のひとつに,シッカリと今回のMLSもあったわけでして。


 フットボール・ネイションとは言えないアメリカのリーグに移籍するわけですから,確かに「都落ち」という印象は否めない。けれど,ジュニア層に対するフットボール人気というのは相当なものがあるそうです。でありますれば,リーグ全体を積極的にプロモートする意図もMLSサイドにはあり,スクールをアメリカで運営しているベッカム・サイドと思惑が一致したのでしょう。


 いずれにせよ,レアルが「銀河系軍団」路線を明確に捨て去ったのは確かなこと。この先にある新たなチャプターが,どういう書き方をされるのか。相変わらず,それほど思い入れはないはずなのだけれど,興味深いクラブであります。