盛岡商対岡山作陽戦(高校サッカー決勝)など。

今季はちょっと国立霞ヶ丘はサボってしまったのですが。


 オマケに,TV中継もリアルタイムで見られたのは前半だけ,後半に関してはラジオで聞いていたために妙な想像力が働いたり,ひさびさに“Gol!”を連呼するアナウンサーさんにビックリしてみたり,な決勝戦でしたけども。


 やっぱりカップ戦の頂点だな,というゲームですよね。


 基本的に,「勝ちに行く」という意識よりも,「負けるわけにはいかない」という意識の方が強く感じられる。盛商,作陽ともに,最終ラインとディフェンシブ・ハーフから構成される守備ブロックをチームの重心として位置づけ,そこから攻撃を組み立てていくというスタイルをとっているように感じるのですが,攻撃的な部分では「縦」への速さを活かしながらボールを大きく展開していたのは,どちらかと言えば盛商だったような感じです。


 それでも,均衡した状態は崩れずにハーフタイムを迎えて,後半であります。


 作陽が先制点を奪取した時点で,かなりゲームは動き出したな,と感じます。また,1点ビハインド,という状況でPKチャンスを獲得するのだけれど,そのチャンスを生かせなかったという部分が,むしろチームにとってはポジティブな影響を与えたのかな,と感じます。恐らく,作陽にしても先制点を奪取した時点で,一気にたたみ込みたいという意識は強かったものと思います。盛岡商は,その意識を上回るように攻撃的な姿勢を前面に押し出してきた。前半からも比較的ひとが積極的に動いているような感じがあったのですが,後半になってもその印象は変わらなかった。


 恐らく,岡山作陽,そして盛岡商の持っているパフォーマンスが最大限に引き出されたのは,盛商がPKに失敗してからの時間帯だったのではないでしょうか。ともに守備バランスを強く意識した戦術を徹底しながらも,同時にリスクをかけながら攻撃を組み立てていく。そのときに,盛商には「走力」という武器があったということかな,と。


 昨季の野洲のような,エレガントさを感じさせるようなポゼッション・ベースのフットボールではありません。むしろ,カウンター・アタックの方向性を強く感じさせるフットボールではありますが,ひとりひとりが忠実にプレッシング,その先を意識した動き出しをしていくことでチームが高い組織性を発揮しているな,という感じがありました。


 国立霞ヶ丘のバルコニーに勝者として立つ,その価値が十分にあるダイナミズムだったなと思います。


 ・・・さて,ちょっと大会全体をまとめてみますと。


 守備面が強調された大会だった,という見方があります。確かに,そんな印象もありますが,すべてのチームが同じ設計図を使っていたわけではないとも思います。ちょっとそんなことを,書いていこうかと。


 野洲が昨季大会でもたらしたインパクトは,今季大会イロイロな形で反映されているような感じです。


 戦術的なバインドを最低限にとどめ,攻撃面ではひとりひとりの選手が持っているイマジネーションを最大限に引き出していく。となれば当然,パス・ワークやボール・ポゼッションによってチームがリズムを作っていくことになる。


 そんなスタイルを全面的に採用しているわけではないけれど,“エッセンス”として落とし込んでいるな,という印象を持つチームが確実に増えているように思います。


 もちろん,短期決戦型のトーナメントですから,守備面での安定性は最重要課題であり続けています。ですが,その守備の仕掛け方にバリエーションが出てきているような感じがあるのです。


 最終ライン〜ディフェンシブ・ハーフ(と言いますか,アンカーと言いますか)を比較的低めに維持して,この守備ブロックが仕掛けている網に誘い込んでいくようなプレッシングを仕掛けていったり,逆に最終ラインを比較的高めの位置で,しかも緻密にコントロールしながら全体をコンパクトに維持,速攻を仕掛けることを意識した中盤でのプレッシングを仕掛けるチームがあったり。また,そこからの攻撃スタイルにしても,ロングレンジ・パスを前線に繰り出していくスタイルだけではなくて,ひとりひとりの選手が持っている特徴をうまく生かす形での組み立てを意識しているな,と感じました。


 湯浅健二さんのコラムにもあるように,高校年代でリーグ戦を戦う,というスタイルが定着したことで,「自分たちの主戦兵器とは何なのだろうか?」という意識がかなり明確になったのだと思うのです。


 トーナメントだけを意識するのであれば,恐らく導き出される回答は相似形を描いてしまうでしょう。


 ですが,リーグ戦にあっては,相手の長所を消し去ることよりも,自分たちの長所を押し出すことが求められることになる。となれば,チームの重心がどこにあるのかにはじまり,ストライカーの持っている個性を100%引き出すためのパッケージとはどうあるべきか,という考えに行きつくはず。加えて,コーチング・ライセンス制度によって,指導者さんのレベルが確実に上がっているのではないでしょうか。少なくとも,地域間格差はなくなりつつあるように思います。さらに,プロを経験したひとが高校などを率いるようになれば,多くのタレントを抱えるようになっているJユースとの実力差も縮まっていくはずです。


 どこか,ネガティブな論調ばかりが目立ちますが,そうネガティブばかりではないような,そんな感じが個人的にはします。