対鹿島戦(天皇杯準決勝・短信)。

ファイナル・スコアだけを取り出してみれば,「典型的なカップ戦」のゲームであります。


 それだけではなく,相手のラッシュを冷静に受け止めながら鋭くカウンター・アタックを繰り出し,ゲームを巧みに引き寄せていっているわけですから,リアリスティックなフットボール,という評価だって間違ってはいないはずです。


 ですが,国立霞ヶ丘で展開されたフットボールは,単純に“リアリスティック”と言ってしまって良いものとはちょっと違うような,そんな感じがしました。


 言ってみれば,熟成された2006スペックとは微妙に違う,2006スペック(モディファイド),あるいは2007スペックに向けたプロトタイプとも言うべきチームのような感じがするのです。


 最終ラインを徹底的に高い位置に維持し,チーム全体が連動してボール・ホルダーに対して強烈なプレッシングを仕掛けていった2004シーズンから,ボール・ホルダーに対するプレッシングの方向性を“パス・コース限定”というものへと転換,最終ラインはGKとの位置関係を適切に保ちながらストリクト・マンマークの要素を色濃くするディフェンスを展開,そこからポゼッションを基盤とするフットボールを展開するというのが,2005,2006シーズンにおける基本的なスタイルだったように感じます。その要素にも含まれる,“ポゼッション”から相手を崩す,というのが比較的明確に見えてきているのが,このトーナメントではないかな,と思うのです。


 静的なチーム・バランスを見れば,リーグ戦とそれほど変わらないパッケージを採用しているけれど,動的な部分を見ていけば,文字通りの1トップを採用していると言うよりはむしろ,2トップ的な運用をしている時間帯が多く,FWの位置に入っている選手とトレクワトリスタの位置に入っている選手が頻繁にポジション・チェンジを繰り返す中からリズムを作り出しているような印象が強かったように感じます。


 本来,カップ戦の方がリアリスティックな,シンプルにカウンター・アタックを仕掛けていくような戦い方になりそうなものでありますが,浦和は確かにカウンター・アタックを基盤にした攻撃を組み立てつつも,実際にはボール・ポゼッションの意識を強める中から攻撃を組み立てていたような感じです。


 連動性,という意味ではともすれば,リーグ戦よりもこのカップ戦の方が多いかも知れません。