“Run and Gun”の先を。

考えてみれば,日本にはFIFAのテクニカル・スタディ・グループ(TSG)にかかわっていた指揮官が案外多く来ておりますな。


 先頃,ジェフから退かれた祖母井さんの功績が大きいんですけどね。ベングロシュさんや,現在日本代表を率いているイビツァ・オシムさんもかつて,TSGメンバーとして活躍されておりましたですな。


 そして,今回正式に就任がオフィシャルにもリリースされました,ホルガー・オジェックさんもTSGのチーフでありました。


 ホルガーさんが駒場ダッグアウトを仕事場としていた当時,浦和がピッチに表現していた攻撃は,「縦への速さ」を最大限に引き出したものでした。もちろん,その前提として堅固な守備ブロック,正確なパスを配給できるパサー,そしてスピードにあふれたFWやサイド・ハーフがなければならないですし,見方を変えれば,短期間に「結果」を引き出すためには,フルコート・カウンターを基盤としたチーム戦術を徹底させることが現有戦力を考えるならば最短距離,という判断もあったのでしょう。


 そのスタイルは,フットボール・ジャーナリストである島崎さんが言うように,“Run and Gun”とでも形容すべきものでした。イングランド的なキック・アンド・ラッシュに正確性とスピードを加え,相手の攻撃を受け止める守備戦術には,ストリクト・マンマークの要素を強く求める。ジャーマン・スタイルと,イングランド・スタイルを巧く折衷させたような感じです。


 この,“Run and Gun”をいまのチームでも再現することは可能でしょう。


 ですが,このフットボール・スタイルの先にあるものを当時だって意識していたはずです。むしろ,クラブが「その先」を焦ってしまったところがあったのかも知れない。オジェックさんが描いていたかも知れない「その先」がどういうものだったのか。それは分かりませんが,TSGでの経験はこの指揮官に多様な戦術的なアイディアをもたらしていると思います。そのアイディアを,浦和へと落とし込んでほしい。


 少なくとも,戦術的なフリー・ハンドを持てるだけのバリエーションはあると思うのです。ポゼッション・ベースか,それともカウンター・アタック主体のチームを構築するのか,なんて二者択一をするのではなく,この2つの要素を柔軟にゲームのなかで切り替えられるだけのポテンシャルを持った選手がそろっているはずです。モダン・フットボールにあっては,ポゼッション・ベースの戦術を基礎に置いていても,攻撃時にはシンプルなパス・ワークと縦の速さを有機的に結びつけられなければ,決定的な局面を作り出すことは難しいでしょう。オジェックさんは,FIFA主催のゲームにおいて,そういう流れをハッキリと意識しているはずです。そして,クラブが掲げる目標も11シーズン前とは比較にならないほどに高くなった。


 ならば,この指揮官の要求レベルは一気にジャンプ・アップするかも知れません。個人的には,そのジャンプ・アップがどのくらいになるのか,期待したいな,と思うのです。