対福岡戦(天皇杯5回戦)。

最大限好意的な解釈をすれば,スターターの入れ替えによって戦術的な幅を感じられたゲーム,ということにもなるかも知れない。



 しかし,“戦術的な幅”を指摘するならば,スタイルの違う選手を投入したときに必要となる,微調整を受けた戦術的なピクチャーがない,という部分を同時に強く指摘しておくべきではないか。



 「縦」への突破が重要な要素であることなど,言うまでもない。

 それは,ミドルレンジ〜ロングレンジ・パスを多用しながら「縦」へのスピードを存分に活かしつつ攻撃を仕掛けるスタイルであろうと,ポゼッション・ベースのフットボール・スタイルを前面に押し出そうと変わるところはない。また,スペースを狙うパスを意識するのか,足下を狙うパスを繰り出すことで徹底しているのか,という部分においても,チーム全体がブロックとして縦への意識を持ちながらパス・ワークを組み立てられているならば,それほどの問題はない。



 しかし,その縦に対する意識がバラバラのままでポゼッション・ベース,しかもショートレンジ〜ミドルレンジ・パスを細かく繰り出しながら相手守備ブロックを崩すというのは困難だろう。



 「突破」という部分にフォーカスが過度に集中している部分があり,あるいはパス・ワークによって相手守備ブロックにクラックを作り出すことだけに集中しすぎている部分がある。その結果として,チームが本来描いているべきピクチャーがズレを生じることになる。

 その結果として,本来浦和というチームがリズムを生み出すはずのミドル・サードで決定的なミスを犯すことになり,相手に対してカウンター・アタックの起点を提供することになってしまう。となれば,守備ブロックが安定して相手の攻撃を受け止めるのではなく,相手が攻撃リズムを早めている段階で守備応対に入らなければならず,ミスが決定的な局面を誘発しやすい状況を作り出してしまっていた。この部分においては,ゴーリーが相手攻撃陣に対してプレッシャーをかけられるポジショニングをとり続け,概ね安定したパフォーマンスを見せ続けてくれたことが,決定的な破綻を招かなかった大きな要素ではなかったか,と感じる。



 リーグ戦とは異なる戦術的ピクチャーを使わざるを得なかったためか,あるいは明確なモチベーション・クラックが作用したのか,レギュラー・タイムではゴール・ネットを揺らせずに終わる。

 ただ,相手に掛かっているプレッシャーも相当なものがあったように見える。



 延長戦へ突入すると,個々の持っている選手の持っているパフォーマンス,ポテンシャルが大きな要素となってくる。そして,その高い個のパフォーマンスによって相手を突き放すことに成功する。



 ・・・ま,カップ戦ですから「結果」こそすべて,と言ってしまえばそれでおしまいなんですけど。



 戦術的な広がりが持てるかも知れない,という可能性を秘めたスターターだったのに,そのポテンシャルを最大限に活用できなかったところが,最大の不満だったりするのです。

 また,ポゼッション・ベースのフットボールならば,ボール奪取ポイントは相当重要な要素になるはずなのですが,このポイントを取ってみても非常に不明確でした。ポイントが上下すること自体は当然だと思うのですが,その上下を「意図してできるのか」どうかが問われる。

 そういう部分からも,このゲームは“モチベーション・クラック”という要素が大きく影を落としたな,という感じがします。“リーグ戦制覇”という達成感を前に,これはある意味,仕方ないことかも知れませんが,中途半端な態勢でゲームに臨めば“アップセット”を作り出すことにもなりかねない。



 外にあるのか,内にあるのかにかかわらず,「シビアな敵」に少なくとも複数回対峙しなければ,本当の意味で駆け抜けることができないのがカップ戦です。5回戦においては,福岡という相手以上に戦わなくてはならなかったのは,「内なるもの」だったのではないでしょうか。

 “DOUBLE”(=2冠奪取)に向けて,戦う姿勢を取り戻すためには延長戦を含めて,120分という時間が必要だった,ということではないか,と思うのです。