見えない方向軸。

思い返してみれば,ファン・マルバイク監督の時代から,クラブ・フロントの方向性とコーチング・スタッフの方向性とが一致していないような印象がありました。


 ある意味,2001〜02シーズンのUEFAカップ奪取がフェイエノールトロッテルダムとしてのピークであって,そこからは下降曲線を描いているのではないか,とさえ感じられます。まだ,2001〜02シーズンあたりではマイスター・シャーレを奪いに行くための勝負権を持っているような感じがあったのですが,クラブを強くするという方向性での人事往来を見ることはできず,むしろクラブの体力が削がれるかのような方向性が目立っている。


 ということで,根が深いフェイエノールトの低迷 : ワールドサッカープラスという記事をもとに,ひさびさの欧州ネタを書いていこうと思います。ボチボチ,欧州ネタは(ネタ枯れ対策,という部分もありますが。)増やしていこうと思っております。


 さて,ヨーロッパの移籍事情を考えると,「ボスマン判決」というものがありますから,選手移籍に関してクラブが日本以上に緻密な戦略を立案しておかなければ,クラブが保有する戦力が流出するだけになってしまう可能性すらあります。いわゆるボスマン判決が意味するところをおおざっぱに書けば,契約期間を満了した選手に対する保有権をクラブ・サイドが主張することはできず(その時点でFAってことですな。),それゆえ移籍係数と年俸から算出される「移籍金」が発生することはない,ということであります。


 でありますれば,複数年契約を選手サイドと結んでおく,というのは契約期間途中での移籍に対して,ある種のリスク・ヘッジをしているという見方があります。実質的な移籍金を獲得するために,有力な選手に対してはあらかじめ複数年にわたる契約を提示,その契約のインターリムに移籍に対する打診があれば,満了まで残っている契約を移籍先のクラブへ買い取らせる,という形で実質的な移籍金,つまりは違約金を手にする,というわけです。


 ボスマン判決以降,ある意味で「お約束」となったこのビジネスが,フェイエノールトロッテルダムは得意ではないように映ります。投資回収があまりにヘタ,と言いますか。そもそも,「移籍金」に相当する金額を手にしているにもかかわらず,戦力を落とさない方向でのスカウティング,そのスカウティングをベースにした戦力獲得をしているのかと思えば,そういうわけでもない。2001〜02シーズンのパッケージを基盤として,その基盤を構成している選手が抜けるのであれば,どういうモデルチェンジをはかっていくのか,クラブ・フロントとコーチング・スタッフがしっかりとディスカッションしながら方向軸を定めるべきでしょう。その手続きを踏んでいるようには見えなかったのです。どう見ても,選手流出が先にあって,そのあとにチームをどう再構築しようか,という検討をはじめているようにしか感じられないことが多かった。それだけに,堀さんがコラムのなかで明確に指摘しているように,莫大な投資を繰り返している割にはその投資を満足に回収できないばかりか,クラブとして戦力を最大限に生かし切れない環境であるかのような印象を与えるような結果しか残していないわけです。


 当時ですら,方向軸がブレているような印象があったのだから,2006〜07シーズンにおける混乱も一定程度納得できる部分があるように感じられます。


 ・・・もちろん,“フットボール・フリーク”としての目線はまったく違いますし,そこから導かれる結果もまったく違います。今回はそうではなく,「冷徹なフットボール・ビジネスの世界でどう立ち回ってほしいのか」という,かなり引いた視点で見ています。


 ライバル・クラブからの獲得オファーや海外有力クラブからのオファー,そして何より選手自身の意思によって「選手が抜けていく」というリスクを常に見越しておかなければならない,というのは間違いないところだろうと思います。フットボール・ビジネスという部分を考えれば,戦力流出リスクを最低限のものへと軽減する(そして,当然ながらさらなる補強を進めるための資金をシッカリと確保する)ためには,クラブがどういうチームを作り上げたいのか,というイメージをコーチング・スタッフと共有するなかから,しっかりとした補強戦略を立案しておくことも重要であるように思うのです。


 フェイエノールトロッテルダムの失敗(厳しいようですが,こう言うべきだと思います。)は,ヨーロッパという遠い土地で起きたこと,で済まされるようなものではないように思いますし,決して看過できるものではないように思うのです。