不格好ゆえの魅力。

リーグ・チャンピオンシップがシングル・シーズン制へと移行したことで開催されなくなりましたから,ある意味Jリーグにおいて「最も熾烈な“ホーム・アンド・アウェイ”」ではないか,と思います。


 入れ替え戦,であります。


 その第1戦が行われたのが,神戸ウィング・スタジアム。FIFAワールドカップ2002年大会に合わせて作られた競技場であります。でありますが,いまの姿とはちょっと違っていました。開閉式の屋根は確かまだ設置されておらず,ゴール裏スタンドはいまの規模よりも遙かに大きな仮設スタンドになっていたと記憶しています。悪く言えば,ちょっと不格好な感じも確かにするのですが,個人的にはいまの「完成した」姿よりも,当時のちょっと未完成な感じの方に好感を持っています。


 多くのゲストを迎えるために,スタジアム全体のキャパシティを引き上げる必要があったのでしょう。しかし,その形に魅力を感じたのです。


 その理由は恐らく,ボルシア・ドルトムントの本拠地であるヴェストファーレン・シュタディオン,そのゴール裏が全席個席へと改修を受ける以前の“テラス”が残っていた頃をどこかで思い起こさせるような感じがあったから,かも知れません。


 スタジアムは,確かに建築物です。ですが,しっかりとしたデザインだけで完結するようなものか,と考えると,それはちょっと違うようにも思うのです。


 もちろん,大きな観客収容数を誇るのであれば,そのキャパシティに見合ったホスピタリティが完備されていなければならないし,高いセキュリティも持っている必要があります。ですが,その競技場に実際に足を運ぶクラブ・サポータやフットボール・フリークが求めているホスピタリティとは,物理的なホスピタリティだけではなく,どれだけピッチに立っている選手たちと心理的に,そして物理的に近さを感じられるか,ピッチに立っている選手から熱をもらい,逆に選手たちに与えることができるのか,という部分にも求められるような感じがします。ヴェストファーレン・シュタディオンは,間違いなくそういう空間だと(残念ながらTVから受ける限定的な印象でしかありませんが)感じられるのです。


 そういう視点から見ると,2002年当時のウィング・スタジアムの姿は確かに不格好だったかも知れないけれど,フットボール・フリークが思い描くスタジアム像と重なり合うところがあったように思います。キャパシティがあのままでは大きいと言うならば,屋根にかけるお金をプールして,将来キャパシティ・アップできるような形のゴール裏を作ってもよかったのに,と,当時本気で思いました。また,アウェイ方向だけ縮小して,いっそのことアシンメトリカルな競技場でもいいのではないかな,と。


 どうしても,大きな建造物を新たに建設するときにはシンメトリカルであることを意識したり,デザイン的な完成度を追い求めてしまうような感じがします。全面的に間違っているなどとは思わないし,オシャレで快適にフットボールを見られる方が良いに決まってます。


 でも,ひとつのクラブを追いかけている目線で見ると,また導かれる回答は違ってきます。


 どんなに不格好だろうと,サポータ,ファンが持っている熱が伝わりやすいスタジアムこそが最高だ,というように。サポータ,フットボール・フリークとともに進化を続けたりする,のびシロがあるスタジアムも魅力を持っている,と言っても良いでしょう。


 本来,Jリーグ規約で定めるべきは,単純なキャパシティではなくて,「ともに成長できるスタジアム」という理念ではないか,とちょっと思ったりするのであります。