永久陣地と浦和B。

ある種の「共時性シンクロニシティ)」を感じる話であります。


 MDPに「永久陣地」というキーワードを持ち出してくれたのは,浦和に対して厳しく,そして暖かい目線を送ってくれているフットボール・ジャーナリスト,大住良之さんであります。かつて日産自動車サッカー部を率いた加茂周さんの言葉を基礎に,高い将来性を持っている選手たちに対して,しっかりとした実戦経験を積ませるための具体的戦略が早急に必要になってくる,という趣旨のショート・コラムを寄稿してくれているわけです。


 MDPのエディターさん(恐らく,清尾さんだと思いますけど)は「初優勝に向けてポイントとなる部分」について掘り下げたコラムを依頼しているはず,です。実際,報知新聞や日刊スポーツさん,あるいは埼玉新聞で浦和を担当されている記者さんは守備力,攻撃力などのテーマに沿ってコラムをまとめています。大住さんだけ,ちょっと路線が違うような感じもするわけです。


 ただ,決して看過できない話であることも確かです。以前書いた「戦略」思考に関わる話ですし,しっかりとした戦略なしに具体的な方策は立てようがありませんしね。


 大住さんがこのショート・コラムで主張していることは,単純に「世代交代」というだけの意味ではない,と感じます。本当の意味での「永久陣地」を構築するためには,チーム内競争を高いレベルで維持していくことが重要であり,その中でチーム力を大きく落とすことなくスムーズな世代交代がはかられていく,という姿が最も望ましい。そのためにはできる限り実戦経験を積ませる必要性がある,ということだと思うわけです。そのために,どういう方策があるのか,ということであり,大住さんは「ローン(期限付き移籍)」を例として挙げています。


 実戦経験を積ませる,という側面から加部さんは,「サッカー・ダイジェスト」誌(2006年11月7日号)で「浦和B」というアイディアを持ち出しています。なかなか興味深いアイディアだな,と思うのです。


 恐らく,すでにJFLへ参戦しているジェフ・ユナイテッドの下部組織,ジェフ・クラブをイメージしているのでしょうが,浦和にとってもかなりメリットは大きいものと思います。JFLはアマチュア最高峰という位置付けのリーグではありますが,リーグ戦形態を見ると,ディビジョン1とまったく同じです。18チームが2回戦総当たり制のリーグ戦(つまりは,34ゲーム)を戦う,長丁場のリーグ戦だからです。加部さんも言うように,同じプロフェッショナルが戦うサテライトがいいのか,それともアマチュアと戦うJFLが良いのか,は議論の分かれるところでしょうけど,少なくとも(レベルの差はあるかも知れないにせよ)真剣勝負を34ゲームもできる,というのは大きな意味があるはずです。JFLだとしても,「浦和」という存在に対しては,猛烈なモチベーションを持ってぶつかってくるに違いない。そのモチベーションを跳ね返し,自分たちのフットボールを押し出せるならば,プロフェッショナル相手の8ゲームを超えた収穫があるかも知れない,と思うのです。


 また,「トレーニングのためのトレーニング・スケジュール」から,「マッチデイから逆算したトレーニング・スケジュール」という,すこぶる実戦的なスケジュールへと移行できることも大きいように感じます。例えばアウェイ・マッチのことを考えれば,移動時間や移動距離を勘案してどういうコンディショニングをしていくか,そしてコンディショニングと並行して戦術理解度を引き上げていくためのトレーニングを組み合わせていく。その繰り返しを早い段階から経験できることになるわけです。また,トップチームとコンセプトを共有した戦い方をしていくことで,自分たちのどの部分が実際に実戦で通用し,どの部分をさらに伸ばしていかなければならないか,などの部分がハッキリと見えてくる。


 大住さんが言う「永久陣地」を構築するために,クラブに与えられているリード・タイムは決して多くはないでしょう。加部さんの提案は,確かに「大きな夢」ではあるけれど,決して実現不可能な夢ではないし,むしろ実現させるために一歩を踏み出して良い種類の夢かな,と思うのです。