つくり出すべき循環。

野心的な指導者もいていい,と言いますか,いてほしいと思います。


 ただ,経験豊かな指導者も同時に必要でしょう。


 今週発売になったとある専門誌で,高円宮杯決勝に進出した滝川第二,そして名古屋グランパスエイトU−18を率いる指揮官を取り上げたコラムが掲載されていたと記憶しています。高校であることを最大限に活かし,キメの細かい指導をしていく黒田さんと,自信に溢れ,野心的に高円宮杯決勝に臨んできたパクさん。このコラムを担当された方も書いていましたが,どちらが「正解」という性質のものではないような感じがします。それぞれが,自分たちの強みを徹底して押し出そうとするのは,当然のことでもありますし。


 ただ,お互いのアプローチから学ぶべきものは間違いなくある,とも感じます。確かにリソースを考えたりすればクラブ・ユースが優勢かな?,と思わないでもないけど,では高校チームは常にクラブ・ユースの後塵を拝すべき立場か?,と言えばそうでもないように感じるのです。


 リスペクトを失うことなく,「足らざるもの」を互いの姿から見つけていく,というくらいが健全かな,と。


 というようなことを考えていると,こちらの記事(日刊スポーツ)では,ユース育成年代指導者の資質向上を狙ったワークショップが開設される,ということです。いいことだな,と思うと同時に,もっとシンプルなやり方もあるな,と。


 端的にユース年代,あるいはジュニア・ユースやそれ以下の年代を担当する指導者の資質向上を狙うのであれば,ヴィッセル滝川第二の黒田監督を育成部長として招いたように,高校や中学チームでの指導経験豊かなひとのノウハウを吸収できるシステムを作り上げること,人的な交流が積極的に図られる,そんな環境作りが重要なのではないか,と思うわけです。


 このことを裏返せば,将来的にクラブ・チームの指導者として活躍したいと考えているひとを,積極的に学校チームが受け入れてもいいのではないか,ということになります。“フットボール”だけを介してユース年代のフットボーラーに接するわけではない,ある意味クラブ・ユースとは比較にならないほど密接な人間関係の重要性を吸収する貴重な機会ともなるように思うのです。


 いまは,学校での経験をクラブにフィード・バックしていく,という形が増えつつある,その端緒とも言うべき時期なのでしょうが,この傾向が深まっていけば,自然と中学や高校などにプロフェッショナル・フットボーラーとして豊かな経験を持ち,フットボール・コーチとしてこれから経験を積んでいこうとするひとたちが向かっていく,ということもあり得るのではないか,と思うのです。


 フットボーラーのセカンド・キャリア,という問題があります。フットボーラーとしてのキャリアはそれほど長いものではありませんから,「その先」を意識しておく必要はあります。その解決策のひとつとしては,大学や高校,中学との連携によってフットボール・コーチとしての経験を学校で積んでもらいながら,学校でしか得られない人材育成のノウハウを吸収していく,という方法論もあるのかな,と見ています。必要とあれば,コーチング・ライセンス取得に関してリソースを提供しているはずの大学において,教職課程に関するコースを用意してもらうとか,バックアップ体制を作り上げる。そして,学校でのコーチング経験を通じて得られたノウハウを,今度はクラブ・チームへとフィード・バックしてもらう,という循環を生み出すことがひとつの方向性にならないか,と考えたりするのです。


 その第一歩として,黒田さんのチャレンジがぜひとも成功して欲しいな,と思うのです。