対インド戦(アジアカップ予選・アウェイ)。

スタンドの構造を見ると,135%程度に拡大した駒場のような。


 好意的な表現をすれば,ちょっとイングランド旧宗主国)風味の入ったノスタルジックなスタジアムであります。プレイヤーが導入路からアクセスしてくる,ってのはちょっとオールド・トラフォード的でもあって。でも,オーガナイズまでがイングランド風かと言えば,そうはいかない。


 それにしてもフラッドライトが消えちゃう,というのはねェ。
 それでも,影響が限定されたのは良かったですな。
 ついでに言ってしまうと,水本選手がピッチから運び出されるときのストレッチャー,ちょっと硬そうでしたね。あと,ストレッチャーを持っているオフィシャル,落としそうな感じがしてドキドキしたですよ。やらかすんじゃあないか,ってね。


 こういうのも含めて,“アウェイ”ですね。ということで,いつものように1日遅れでアジアカップであります。


 ちょっと屋号に擬えた言い方をしますれば。


 依然として,“プロトタイプ”をテストしている段階と言うべきかな,と。
 ただ,開発の方向性自体は間違っている感じはしない。シャシー・エンジニアリングを後回しにしてエンジン・パワーを高めるのではなく,どんなにパワーが上がろうともしっかりそのパワー,トルクを受け止められるシャシーを開発,熟成してやろうという姿勢がうかがえる。
 そりゃあ,テールを左右に激しく振り出しながら(タイア・スモークを盛大にあげながら)スタート・ダッシュを決めればエンターテインメント性も高いし,魅力的でありましょう。前任指揮官は,かなり意図してこんなスタート・ダッシュを決めようとしましたですな。でも,ホントに速いのはスリップもしない,エンターテインメントの欠片もないような,ある意味地味な(教習所的な,という言い方でもいいかも知れません。)発進加速なんだ,ということをデレック・ワーウィックさんがF1中継(イギリスではITV-Sportでやってまして,ワタシはたまたま見ておりました。)でコメントしていたような。そんな感じがするですよ。


 で,ゼロ・スタートからやっとギアチェンジかな,というあたりがいまの代表かな,と思うのです。ただそのマシンがいる場所を冷静に見れば,公式戦というレース・トラックにいるのだけれど,実際の感覚としてはまだプルービング・グラウンドで徹底したテストを実施している,その延長線上としての実戦参加。そんな視点で見ていくことにします。


 ごく簡単に言ってしまえば,チームがパフォーマンスを引き出すことのできるプライマリー・バランスを確認できたゲーム,ということになるかな,と。


 確かに,最終ラインはベストの組み合わせというわけにはいかないかも知れないけれど,ディフェンシブ・ハーフとの“守備ユニット”,あるいは攻撃の起点として捉えれば,チームを安定して機能させるためにはどういうコンビネーションが理想的なのか,ある程度見えてきたのではないか,と思うのです。


 中盤を基準として見れば,オフェンシブ・ハーフ(あるいはウィンガー)の背後にディフェンシブ・ハーフのユニットを置き,一方で攻撃面の分厚さを構築し,もう一方で最終ライン(特に,CB)との連携から相手攻撃ユニットを最終的に抑え込み,攻撃の起点として位置付ける,というように。ボール奪取に向けたファースト・ディフェンスから最終的にボールを奪取,攻撃へと切り替えていく,というリズムがスムーズに引き出されているような感じがしたわけです。
 で,このチームの攻撃を支えるのはディフェンシブ・ハーフ(=当然,プライマリーな部分としてアンカーの役割が期待されるけど,同時に攻撃の分厚さを演出する役割も期待されているキー・パーソン)のコンビネーションかな,と。このゲームでは啓太選手と憲剛選手ですな。


 前半,ピッチ・コンディションが必ずしも良くない状況でリズミカルな攻撃を展開できたのは,啓太選手が積極的に前線へと攻め上がる姿勢を見せ,アウトサイドからセンターへ,あるいは逆サイドへとクロスを送り込んでいた,というのも大きいかな,と思っています。当然,憲剛選手がバランスを意識した動きを見せているからこそ可能な動きであります。そして,その逆もある。
 また,チャンス・メイクという部分で言うならば,アウトサイドから相手守備ブロックを揺さぶろうという戦術的なイメージがかなり強く意識付けられているな,という感じがしました。


 ですけども。水本選手のアクシデントはチームのリズムにネガティブな影響を与えたところがあるように感じます。


 水本選手が負傷離脱したことで,長谷部選手が入る。
 ディフェンダーが離脱したのだから,ディフェンダーを投入するか,と思えばそうではない。
 となると,イングランド的な見方をすればセンター・ハーフが2枚へと変化することになり,啓太選手は水本選手の穴を埋めるべく最終ラインへと入る。つまり,ディフェンスが欠けたときに,ミッドフィールドがどのようなコンビネーションを見せながらその欠けた穴を埋め,同時に攻撃を組み立てていくか,という課題が指揮官から提示されたと見ても良いように思うのです。
 そこで,ホントならばセンター・ハーフと啓太選手とのポジション・チェンジが見られれば,それほどチームのプライマリー・バランスに影響は出なかったのだけれど,(微妙なバランス論ではあるのですが)ちょっと意識が前,あるいは縦方向に傾いてしまった。中盤と最終ラインとの距離感が悪くなってしまったことで,最終ラインが緩衝ゼロの状態で守備応対をしなければならなくなってしまう。攻撃面では,“ドリブル”というアクセントが効果を生んでいただけに,設計変更というよりもチューニングの範疇に入るんでしょうが。


 後半,どこかでバタバタした印象を受けたのは,バランスが微妙にズレてしまったことにあるように感じます。ただ個人的に思うこととしては,かなり穿った見方ではあるけれど,長谷部選手の投入を決断した時点である程度「意図された状況」であり,実戦を通じてどのような解決策を見出すべきか,指揮官は期待していたのではないか,と感じます。


 “ポリバレンス”というと,ユーティリティと限りなく同義のような感じがして,そうなるとプレイヤーひとりひとりのパフォーマンスに直結する話のような感じがします。ですけど,実際にはチームにあっても“ポリバレンス”は必要ということではないでしょうか。チームの重心となるべきプレイヤーが,アクシデントによって本来のポジションから離れざるを得なくなる。そのとき,追加的に投入された選手や,周囲の選手がいままでの機能性を引き出せるようなアクションを加えていくことで,チームとしての機能に大きな変化を与えないようにも配慮する。最低限のディシプリンが維持できているならば,どういう攻撃イメージを表現しても良い。基本形から,ピッチに立っている選手ひとりひとりがどういうモディファイをするか,指揮官は期待している部分があるんじゃあないか,と感じます。


 前半と後半のコントラストを見れば,確かに大きな課題をもらったゲームのようにも見えますが,この課題はこのチームが拠って立つべきフレームを徹底的に強化するためには重要な課題だろうと感じます。