名古屋グランパスエイトU18対滝川第二高校戦(高円宮杯決勝・2006)。

どこか,イングランドの空を思い出させるような雲が浮かんでいました。


 そして,その雲の流れ方も速く,イングランドの雰囲気を思い出させるような天気だったような気がします。とは言え,風の強さだけは間違いなく「赤城おろし」であったり,「筑波おろし」を先取りするかのようなものでしたが。


 その風がちょっと収まってきて,フラッグポールに掲げられたフェアプレイ・フラッグや決勝に勝ち進んできた2チームのフラッグは,比較的緩やかにはためいていたような感じがします。言わば,絶好の「決勝日和」だったな,と。


 ということで,1日遅れで高円宮杯決勝であります。


 ここ数季の印象から言えば,クラブ・ユースと高校チームとの対戦,というのは正直意外な感じがしました。急速に体制を整備し,ジュニア時代からの一貫した方向性のもと育成・強化を図っていくというクラブ・チームのアプローチはすこぶる合目的的だと思いますし,恐らくこれからの主流はクラブ・チームへと移行していくことは間違いないところだろう,と感じてもいます。


 ですが,日本全域にクラブ・チームがあるか,と言えば決してそんなことはないわけでして。


 また,「一貫した方向性」を作り出せる環境が学校教育の中にあるならば,「実質的に」クラブ・チームの育成環境と変わらないものを構築できるはずだし,学校教育でしかできないアプローチもあるでしょう。単純に,主流から外れつつあるものとして学校チームを扱うわけにはいかない。


 そんな状況を,一定程度投影していたのが今季の高円宮杯だったかな,と。となれば,決勝のカードが名古屋グランパスエイトU18(クラブ・チーム)と,滝川第二高校(高校チーム)という顔合わせになったのもそんなに不思議なことではないのかも知れないな,などと思うわけです。


 さて,ゲームでありますが。偶然か,それともスカウティングの結果か,両チームが選択したシステムは4−3−3。ですが,中盤の配置はよく見るとGKサイドに頂点を置くトライアングルを採用していたのが名古屋グランパスエイトU18,逆にGKサイドに底辺を置いていたのが滝川第二高校,とディテールは微妙に異なっていました。このディテールが,このゲームの伏線にはあったのかな,と思っています。


 いつものように,両チームから受けた印象を。

 まず,名古屋グランパスエイトU18(以下,“グランパス・ユース”と略させていただきます。)について。


 端的に言ってしまって,0−3というファイナル・スコアから思うほどに悪くはなかった,と思っています。むしろ,ゲームのリズムを掌握していた時間帯だけを取り出せば,恐らくグランパス・ユースの方が多かったかも知れません。知れませんが,攻撃がセンターに片寄ってしまったことは否めません。相手は4バックを3+1として攻守バランスを意識するのではなく,4人の守備ブロックとして意識し,アウトサイドを抑え込むことを基本的なゲーム・プランとして持っていたような感じがあるのですが,そのゲーム・プランに乗せられてしまったところがあるな,と感じるのです。


 オフェンシブ・ハーフを分厚くする4−3−3というアイディアには,恐らくアウトサイドでの主導権を掌握する中から攻撃の起点をつくり出し,センターの破壊力を高めようという意識があったのではないか,と想像します。そのゲーム・プランが,滝川第二のディフェンシブなスタイルによって封じられてしまう。そのため,縦方向のスピードや鋭さを最大限に生かすことができず,ディフェンシブ・ハーフとCBが仕掛けた網に掛かりやすくなっていたような感じがします。


 それだけに,セットプレーでリズムを完全に掌握しておきたかったのですが,実際にはセットプレーを得点へと直結させることはできなかった。勝負のひとつのアヤが“セットプレー”にあったように思います。


 次に,高円宮杯を制した滝川第二でありますが。


 恐らく,ディフェンス面を重視してのことだと思いますが,中盤の構成をディフェンシブ・ハーフを2枚,その前にオフェンシブ・ハーフを置くというトライアングルにしていました。そして,3トップとオフェンシブ・ハーフがポジション・チェンジを繰り返す中から相手守備ブロックを崩しに掛かる,というゲーム・プランを意識していたように感じます。


 ただ,ディフェンス面を安定させる引き換えに,決して攻撃面でのリズムは良くはなかったようにも見受けられます。確かに,3トップとオフェンシブ・ハーフで構成される攻撃ユニットの流動性は非常に高く,ひとりひとりのスピードは破壊力を伴ったものと感じましたが,積極的にディフェンシブ・ハーフや最終ラインが攻撃ユニットのサポートに入ることで,数的優位を構築しながら分厚い攻撃を仕掛ける,という感じではありませんでした。むしろ,ディフェンスの安定性をファースト・プライオリティに据え,前線とオフェンシブ・ハーフだけで攻撃を組み立てるというプランを徹底していたために,ゲームの主導権をグランパス・ユースに握られかけていたような部分も感じられます。


 とは言え,滝川第二の攻撃ユニットは,守備ブロックの堅さに対して真正面から対峙し続けるだけでなく,守備ブロックに生じている隙間をミドルレンジから積極的に突こうとした。ゲーム立ち上がり,リズムを名古屋に握られそうな嫌な雰囲気を,ミドル・シュートを豪快にゴール・マウスへと沈める“superb”なプレーによって振り解くことに成功したわけです。また,後半の追加点も先制点同様にミドルレンジからの積極的なチャレンジが奏功した形です。


 もうひとつのアヤは,滝川サイドから見れば“ミドルレンジからの積極的なチャレンジ”ということになりそうです。守備面で見れば,滝川第二の守備ブロックは粘り強く守備応対を繰り返していたような感じがします。4バックが明確なフラット・ラインを形成している,と言うよりも,SBが巧みに相手SBやウィンガーを抑え込むことでアウトサイドに攻撃の起点を作らせず,基本的に相手の攻撃をセンターへと追い込んでいく。そして,CBがディフェンシブ・ハーフとのコンビネーションの中からグランパス・ユース攻撃陣を的確に捕捉し,かなりの鋭さを持った攻撃をうまくバッファしながら抑え込んでいました。ある意味,ゲーム・プランを徹底することができた,ということが言えるのではないかな,と。


 ・・・確かに,ファイナル・スコアからいえば滝川第二の完勝,という表現も当てはまるでしょう。ですが,実際に見ていたアウトサイダーとしては,(特に,ダメ押しとなる3点目を奪われるまでは)決勝戦らしい緊張感のあるゲームだったと思っています。