グラスゴーのこと。

恐らく,私もちょっとだけ,グラスゴーの環境整備に役立っているかな,と。


 ちょっと甘く見てましたね。


 グラスゴー空港でピックしたヴォクスホール・ヴェクトラを,駐車スペースに置いておいた「つもり」だったのだけれど,ものの見事に,“コミュニティ・チャージを支払いに行ってくださいね♪”という置き手紙がフロント・グラスに。路駐だったわけですな。しょうがないから行きましたよ,郵便局に。いまにして思えば,貴重な記念品なのだから捨てなくても良かったのだけれど,そのときには自分の判断の甘さに腹が立ち,すぐさまゴミ箱へと持って行っちゃいました。


 そのときの目的地が,“ウィローティールームス”。


 ・・・何を唐突に旅行記などを!?と思っているひともおられようかと。


 いつものように,杉山センセのコラム(gooスポーツ - NumberWeb)を読んでいると,フットボールのことよりも,グラスゴーという街のことを思い出してしまったというわけです。でも,フットボールにまったく触れないのもなんですからちょっとだけ。


 純然たるアウトサイダーとしては,「・・・のリーグが面白い」とか簡単に言ってしまうけれど,それって本当の意味でそのリーグ戦を楽しんでいることにはならないだろうな,と思うのですよね。たとえば,フットボールが何らかのアートと同じ文脈で語れるのであれば,それは「・・・のゲームは面白い」という見方が成立する,かもと思います。実際,ある断面を切り取れば,立派にアートでもあるとも思っています。


 だけど,フットボールを見つめるひとたちは,“アート”の側面だけを取り出して,フットボールを見ているわけではない,とも言えるはずです。日常にある非日常として,喜怒哀楽をチームと,スタジアムに足を運ぶひとたちと共有しながらすべてを含めて楽しんでいる。単純比較されたくない要素も含まれているわけです。スコティッシュ・プレミアがリーガ・エスパニョーラに劣っていようといまいと,セルティック・パークやアイブロックスでの“マッチデイ”に足を運ぶひとたちにとっては関係ない。


 加えて言えば,「スペインは・・・なのに,日本は・・・」という見方は表面的に過ぎる,と感じる。高円宮杯を見ても分かるように,クラブ・チームの下部組織が順調に実力を示している一方で,“サブ・ルート”になりつつある高校チームも新たな方向性を模索しながら,結果を引き出しつつある。そして,ノックダウン・ステージに入ると高校チームがクラブ・ユースを退けもしている。裾野が広がっている,という見方も成り立つはずです。また,フットボーラーは工業製品ではないのだから,一定以上の品質を確保しながら定期的に供給できるものでもない。一方で方法論を常に見直しながら,もう一方で焦らずに原石を見つけ出す努力を怠らない。そのサイクルがあるならば,「ゴールデン」とか「谷間」とか,一喜一憂する必要など,どこにもないと思うのです。


 ・・・ちょっとだけと言いながら,思わず書いてしまいました。


 グラスゴーのことももちろん書いてありますので,ご興味のある方だけ,折りたたんであるところを広げてみてくださいませ。


 さて,“ウィローティールームス”でありますけれど。


 幾何学的なデザイン(特に,レクタンギュラーが基本的モチーフですね。)を採用したハイバック・チェアで知られる,チャールズ・レニー・マッキントッシュさんが手掛けた場所であります。マッキントッシュさんのことに触れている書籍やウェブを見てみると,このティールームは1903年にオープンしているとのこと。まだ,デコラティブなデザインが主流を占めていた時期だろうと思いますし,基本的にイングリッシュ,そして当然スコティッシュの色彩バランスは“シック”と言うよりも,ギリギリのバランスを保っている,ちょっと不思議な感じがあります。伝統的なUKの色彩感覚を思えば,マッキントッシュさんの色彩感覚はある種の異彩を放っていた,と言って差し支えないのではないでしょうか。なかなかロンドン中心地のホテル,それも中規模以上のホテルでは感じにくいかも知れませんが,アールズ・コートやパディントンベイズウォーター周辺で個人経営,あるいは小規模経営されているB&Bとか,田舎のカントリー・ハウスに泊まったことのある方なら,何となく理解してもらえるはずです。フツーなら考えつかないカラー・コーディネイトをカーテン,カーペットやベッド・リネンにしているはずですから。


 いまでも,ちょっとビックリするようなカラー・コーディネイトが当たり前なのだから,マッキントッシュさんがこのティールームスを手掛けたときのインパクトは相当なものだったと思います。なにしろ,現代にも通用するシンプルな,しかもかなり抑えた色調のデザインをひとが多く集うティールームへと落とし込むわけですから。相当,アバンギャルドなひとだったに違いない,と思います。そのせいか,ちょっと古い感じのする建築の方が,かえってモダンな印象を与えているのが印象的でした。私が泊まったホテルは,市街地中心部からちょっとだけ外れたところにあったのですが,その鉄筋コンクリート造の建物はむしろ古びた感じを与えていたように記憶しています。


 反対に昔から建っているに違いない,ちょっと淡い色調を持ったレンガ造の建物はレトロな印象を受けるのは確かなのだけれど,どこかにモダンな香りを漂わせてもいる。


 現代においても,イングランドの設計家は攻めたプランを押し出しますよね。レンツォ・ピアーノさんとポンピドゥー・センターを設計したり,ロイズ・オブ・ロンドンを手掛けたリチャード・ロジャースさんしかり,ウォータールー国際駅を設計したニコラス・グリムショーさんしかり。装飾性をできるだけ排除し,機能を徹底して前面に押し出すことで,結果として機能に装飾性を持たせる。シンプルさを突き詰めた先にある装飾性とは,こんな感じかな,と思うところがあります。ひょっとすれば,そんな彼らのアイディアの源泉はマッキントッシュさんに行き着くのかな,とどこかで思ったりするのです。


 ・・・ちょっと話がズレました。戻しますと。


 イギリス,というか,UKをイメージすると低く垂れ込めた,いまにも降り出しそうな空と,そんな空を忠実に再現したかのようなモノトーンの建物が思い浮かびそうですが,案外,よく見てみるとレンガの色や,結構鮮やかなタイルの色が目立っていたりします。空の色にしても,よく眺めてみればすごく複雑なグラデーションが楽しめる。フィレンツェのアルチザンあたりなら,マーブルにしたいような,繊細な色の変化だってあるわけです。私にとってグラスゴーの色は,複雑な空のグラデーションと,ちょっと黄色みの強いレンガの色で構成されるコンビネーション。そんな印象が強く残っているように思えます。