解任騒動のことなど。

最近,まったくラグビーフットボールのことを書いていないような感じがしますから,「解任騒動」などとタイトルに書くと,ヘンな方向の話を書くのか?などと思われるかも知れませんが。


 そんなことはありませんで,こちらの記事(asahi.com)にありますように,ジャンピエール・エリサルドラグビー日本代表ヘッドコーチ(HC)の解任騒動のことを書いていこうか,と思うわけです。


 簡単に言ってしまうと,それほど日本代表の強化に関して熱心とは感じられなかったエリサルドHCが,フランス1部リーグに所属するアビロン・バイヨンヌのスポーツ・ディレクターにJRFUに無断で就任,これに対して,JRFUサイドは兼任解消(代表専任)を通告するものの,拒否という流れがあってのことなのだそうです。


 ・・・正直なことを言ってしまうと,解任は当然のことであって,兼任がハッキリとした時点でサッサと手続に入ってしまえば良かったと思います。


 そんなことよりも,個人的に最も懸念しているのは,前任の萩本さん時代から段階的に導入してきたフレンチ・スタイルのラグビーフットボール全体が否定されはしないか,ということです。


 ラグビー・ネイションと同じアプローチでは,恐らく俊敏性や高い戦術理解度などを持っている選手個人のポテンシャル,パフォーマンスを最大限に引き出すことは難しいだろうし,ジャパンという明確な個性を持った戦闘集団を組み上げることは困難を極めるだろうと思っています。
 その意味で,緻密なパス・ワークをベースとしたアイディアは決して間違っているとは思わない。「日本人」の特性を最大限に引き出す,という基盤があるならば,フレンチ・スタイルをモディファイするという手法を批判しようとは思わない。要するに,エリサルドHCのアイディアに関しては「総論賛成」。いままでのスタンスは,基本的にこのようなものでした。


 ですが,そのアイディアを現実にするためのメソッドをどれだけ持っていたのでしょうか。


 イビツァ・オシムさんは,“判断スピードを引き上げる”という明確な意図を持って,複数のビブスを縦横に駆使しながら選手の判断速度を上げ,意思疎通のスピードを上げていくための独創的なトレーニング・メニューを編み出しています。そういう,具体的なトレーニング・メソッドを背景としたアイディアだったのでしょうか。この点について,スポーツ・メディアはあまり詳細に踏み込んでいないような感じがしますが,実際問題として「理想を現実化するための具体的な方法論」を持ち合わせていなかったのかも知れない,と思うところがあります。それゆえ,「総論賛成だけれど,各論を見ていくと反対せざるを得ない」典型のようなひとだったような感じがします。


 基本アイディアをしっかりと現実化できないひとは,強化スケジュールが圧倒的に短い代表チームを率いるべきじゃあない。こういう部分からも,今回の解任という流れは納得できるところです。


 オシムさんと比較する形で,加えて言えば。


 どれだけ本気で,日本のラグビーフットボールと向き合う覚悟があったでしょうか。あくまでも限定的な印象だけを映し出すに過ぎない映像だけで,選手のパフォーマンス,ポテンシャルを見抜くことができるのか。トップリーグに参加しているクラブに限らず,トップイーストや大学リーグ上位の各クラブ,その練習などをチェックする中から,ポテンシャルを持った選手たちを引き上げたり,トライアウトなどを通じて,自分が理想とするラグビーフットボールを積極的にプロモートすべきではなかったか。
 兼任か否か,という問題以前として,「覚悟」のようなものがあまりに薄い。ラグビー・ワールドカップで決勝トーナメントに進出することを最重要課題としているのであれば,代表強化にあって「覚悟」の見えるひとであるべきでしょう。


 2007年ラグビー・ワールドカップ(RWC)に向けて,それほど十分なリード・タイムがあるわけじゃあないし,11月にはRWCアジア地区最終予選が迫っています。JRFUも後任監督探しに大変でしょうが,是非とも本気で日本のラグビーフットボールに関わってくれるひとを選んで欲しい,と思いますね。