Liaison.

「連語」って言いましたっけか。そういう,フランス語の発音にまつわる話ではありません。


 公道を使ったモータースポーツ,ラリーの話からはじめようかな,と。
 ラリー・マシンが派手にドリフトを決めていたり,ちょっとやりすぎてコース・オフした様子をオンボード・カムが捉えていますが,ああいう状況は“スペシャル・ステージ”(SS)と呼ばれるタイム計測区間でのことであります。いまのラリーは,このタイム・トライアルの結果によって順位が決定されます。
 ですが,SSが全域にわたって設定されているわけではありません。ひとつのSSが終わると,次のSSに向けて移動するわけです。その区間リエゾンと言うのです。


 このリエゾン,結構重要なのです。


 例えば,ラリー・マシンが未舗装区間グラベル,などと言います)から舗装区間ターマックという言い方をします)へと入っていくとすれば,マシン・セッティングを大幅に変更する必要がある。ショックを直接ボディへと入力させないためにストロークを大きくとっているサスペンションを,今度はレーシング・マシンのようにメカニカル・グリップを最大限に発揮できる方向性へと変更し,車高を低める。当然,タイアもレーシング・タイアのようにグリップ性能を徹底的に追求したものへと履き替える。SSでは問答無用の全開アタックが必要になるわけですから,マシンに不安要素を残すわけにはいかない。そのための車両整備(サーヴィス)を設定したりするのが,リエゾン区間になるわけです。
 それだけではありません。公道を移動するわけですから,(一応,と言ってしまうとマズいけど)制限速度を遵守しなければいけないし,マシンを間違いなく次のSS,そのスタート地点まで運んでいかなければならない。「つなぎ」ではあるけれど,決して軽視して良いものでもない区間なのです。


 で,やっと本題なのですが。


 いまの代表チームはマシン・セッティングをグラベル仕様からターマック仕様へと大変更するためのサーヴィスを受けながら,次のスペシャル・ステージへと移動していくレーシング・マシンのようなものだと思います。


 全開にすべきタイミングは,本戦であるAFCアジアカップ。そのときには,躊躇している余地などない。トーナメントの山を一気呵成に駆け上がるべく,徹底的に踏み抜かなければならない。いまの戦いは,そのための準備も兼ねているし,それ以前の問題として「リーグ戦」を戦っているのであり,首位通過を必要不可欠の条件としない限りは相手の出方をも考えた戦い方をしていたところで,何の問題もない。本戦への指定席切符を奪取できさえすれば,タスクは達成されたと評価して良いはず。その目標を取り違えてはならない。
 にもかかわらず,スポーツ・メディアに感じられる空気には,違和感を感じざるを得ない。何を根拠として,過剰な期待を持ち,失望感を表すかのような記事を作り出すのか。自分たちの足元にあるリーグ戦,その順位を気にしながらひとつひとつのゲームを見ているフットボール・フリークをよく見てみればいい。彼らのスタンスこそ,メディアが基礎にしなければならない視点ではないのか。リーグ戦を真剣に観察していないから,予選リーグにあっても「全開」であることを要求する。予選はトーナメント形式ではないことを,いまいちど確認して欲しい。


 勝負事には,ロジックだけでは説明できない部分もあるが,可能な限りロジックを積み上げていかなければ,その「説明できない部分」を引き寄せることなどできない。ましてや,斧で断ち割るかのような強さを見せつけながら勝利を収めることなど,できないはず。そのための基礎を築いているのが,いまという時期なのだと意識しなければならない。
 表面的にはムダに見え,迂遠に見えるかも知れないが,実際には大きな意味を持つ。そういう時期も必要なのだと,スポーツ・メディアの皆さん方におかれましては理解してもらいたいものです。