F4のことなど。

確か,ドゥカティWSBKで圧倒的な強さを発揮していた頃の主戦兵器である,916(最終的には,車両規則に対応する形で998へと進化を遂げていますが)を手掛けているはずです。


 この916,とにかく,インパクトの強いモーターサイクルでありました。


 それまでの851(888)はトラディショナルなカウル・ワークでしたし,エグゾーストの取り回しもそれほど独創的なものではありませんでした。水冷ドゥカティとして,手堅さを優先させた感じがします。


 この,851(888)に対する手堅いという印象を一気に覆すものだったのです。


 例えば,有機的な表情を持った左右2灯式のヘッドライトは,1998年にリリースされるYZF−R1,そのスタイリングに大きな影響を与えたはずです。そして,サイレンサーをシートカウル直下に配置することで,片持ち式スイングアームのメリットを最大限に引き出す一方で,スリークなスタイリングを実現することで軽量設計であることをデザイン面からもアピールすることに成功する。“アバンギャルド”という形容が最も相応しいマシンではなかったか,と感じます。そして,ツインスパー・フレームを見慣れた目には,繊細な印象を与えるパイプ・フレームに驚きを感じたものです。ですが,このマシンの設計を担当したマッシモ・タンブリーニさんは,国産メイクスがツインスパー・フレームを開発する過程で到達した結論に,ビモータ在籍時から気付いていた可能性がある,と和歌山さん(かつてヤマハで開発を担当されていたモーターサイクル・ジャーナリストさんです。)は記事を寄稿された,とある雑誌で書いています。さらに驚きました。


 “talent”(天賦の才能)と言ってしまうのは容易いけれど,それだけタンブリーニさんは「物理特性」を真剣に考えていた,ということかも知れないな,と思います。バイクが持っている性能を最大限に引き出すためには,物理特性を高めておく必要があります。ですが,エンジン,フレームを含めていろいろな制約があります。その制約をギリギリまで切り詰めるという方向性を,最初から考えていた。


 そのタンブリーニさんが手掛けたのが,MVアグスタF4であります。



 エンジン開発にフェラーリが協力したとか,そういう方向で有名になってしまったバイクでありますが,ただ単純に「格好良い」バイクだと思います。和歌山さんは,“エンジンをフレームの支配下に置いたバイク”と表現されましたが,タンブリーニさんさんは基本となるディメンションをあらかじめ決定して,そのディメンションを実現できるようにエンジン設計をさせたようなのです。「理想主義」も突き詰めるとここまで行くものか・・・,と思わざるを得ません。


 プライス・タグを見ると国産ミニバン(しかも結構上級車種)が買えてしまうようなお値段が書かれておりまして,“夢のまた夢”なバイクでありますが,いつかは手に入れてみたい,そんなバイクであります。