対サウジアラビア戦(アジアカップ予選・アウェイ)。

本来,単純に同一視すべきゲームではありませんが,思い浮かんだのは西が丘のゲームでした。


 大前提として,フットボールはジャッジの主観に多くを依存する採点競技ではないし,さりとてタイムという絶対的な基準が勝者と敗者を分かつような競技でもありません。確かに,結果はファイナル・スコアによって導かれるわけですが,ゲーム内容までを忠実に表現するものではあり得ないし,ピッチ上でのパフォーマンス,クオリティをファイナル・スコアは必ずしも反映するものではない。


 もちろん,結果は大事です。


 インターナショナル・フレンドリーとは訳が違う。
 AFCアジアカップ2007本戦へと駒を進めるために,少しでも有利な立場を築いておかなければならないわけです。スタンディングを考えれば,負けて良いことなどないし,勝たなければさらに優位な立場を築きようもない。特に,1−0というファイナル・スコアは悔しさが倍増するスコアと言っても良い。相手に自分たちの良さを抑え込まれたり,逆に自分たちがやりたいことを表現できないがために相手にペースを譲り渡してしまったこと,そして,相手に数少ないチャンスをモノにされてしまったということを示しているような感じがするからです。


 だからと言って,敗戦を必要以上に大きく捉え,展開されたフットボールを全否定する必要性がどこにある?と同時に思うのです。


 確かに,「結果」だけを冷徹に追い求めるのであれば,リアリスティックな展開だけを意識していればいいとは思うのです。また,チームをポジティブな循環へと戻すために,どうしても「結果」が必要になることもあります。そんなときには,「結果指向」であることを否定しようなどとは思わないし,必要不可欠な要素であるとも感じます。
 専修大学のゲーム運びはすごくリアリスティックなものだったけれど,チームを何とかしていまのポジションから浮上させる,そのきっかけを後期開幕ゲームでつかみたい,という強烈な意思を感じました。アーティスティックではなかったかも知れないけれど,チームが置かれた状況を思えば,間違いなく専修は最適解を引き出したな,と思います。


 では,流通経済大学に問題があったのでしょうか。


 確かにそういう側面もあります。前半リードを奪いながら,カウンター・アタックへの意識が共有されていなかったためか,前半終了を目前とする時間帯に失点を喫し,結果的に逆転されての「敗戦」(勝ち点を1点も奪えなかった),という事実は重いし,ポイント・スタンディングに与える影響もあるかも知れない。
 ですが,展開されていたフットボールにまで問題があるとまでは思えなかった。中盤でのクオリティの高さは,チームとして設定している目標が相当高いところにあることを感じさせましたし,コレクティブに相手守備ブロックにクラックを作り出す,という意識付けは徹底されていたな,と。確かに,1部リーグ首位を走るチームが展開するフットボールだな,と感じました。


 そこで,やっと本来のフル代表に話を戻せば。


 いまのチームの最終目標がどこに置かれているのか,によって判断は大きく変わるはずです。どうしてもチームのポジションを浮上させなければならない,それこそリアリスティックなフットボールを展開せざるを得ない状況だったならば,指揮官はそれこそ厳しく指弾されて然るべきでしょう。「理想に殉じる気か!」と。
 ですが,目標を現実的に捉え,「本戦へと駒を進めること」と読めば,もうちょっと冷静に予選リーグを眺められることにならないでしょうか。グループ首位を堅持することが最大の目標ではなくなるわけですから。「どうしても負けられない」のは,先ほど書いたように予選順位をどうしても2位以内へと押し上げなければならない状況か,あるいは一気にトーナメントの山を駆け抜けることが求められる本戦においてのこと,でしょう。「中東勢相手に,敵地でどれだけ意図するフットボールを表現できるか(押し切れるのか)」という目標を隠し持ちながら遠征へと出たとするならば,最もマークすべき相手に対して,「勝ち点1」を確保できなかったことは大きな課題として残るものの,決して大きく問題視すべきゲームではなかったような気がします。共同通信の記者さんは,

 

 アジア杯予選は各組上位2位までが通過できる。A組の力関係を考えれば、W杯から体制を継続した強豪相手の敵地での負けは十分、許容範囲内。・・・本当に負けられない戦いはもっと先にある。


という見方を示しています(出典はSANSPO.COM ニュース速報)。このような見方で良いのではないでしょうか。
 むしろ,イエメン戦こそが「理想」と「現実主義」を巧みに織り交ぜた,勝負という意味を前面に押し出したゲームとなるのではないか,と感じます。


 負けて悔しいけれど,その悔しさを「できなかったこと」(=実戦において表面化した熟成不足の部分であったり,修正しなければならない課題)をクリアするためのモチベーションとできればいい。熟成の初期段階にあるチームに対して,良いトラブル・シューティングができたのだ,と思うくらいがちょうどいいのかも知れない。そう感じます。