再び、地元紙のススメ。

たとえば,マンチェスターに住んでいるとします。


 追いかけているのは,マンチェスター・ユナイテッドであります(あくまでも,たとえば,です)。となると,シーズンチケット・ホルダーへの道は相当険しいから,1ゲームごとにチケットをアプライしなければなりません。最近まで,アプリケーション・フォームに手書きでしたっけ。となれば,オールド・トラフォードで買うユナイテッド・レビュー(マッチデイ・プログラム)は貴重な戦利品としても意識しているはずです。とは言え,キックオフ直前までいろいろなインフォメーションをチェックしているだろうし,場合によってはその戦利品をポケットに無造作に突っ込んだまま観戦しているだろうから,メモラビリアと言うには問題ありまくりでしょうけどね。


 リザルトは・・・。考えずにおきましょうか。


 そのリザルトをチェックするために利用する活字メディアはなんでしょうか。


 タイムス?それとも,テレグラフだったりガーディアンのような高級紙だと思われますか?


 いえいえ,地元紙ですよ。マンチェスター・イブニング・ニュースに手を伸ばすでしょうね。


 なぜかって?知りたいのが,長くクラブを見続けている番記者さんが昨日のゲームをどう見ていたか,という部分であったり,当日は知る術のない指揮官の記者会見でのコメントや,選手たちのコメントだからです。ほかのクラブのゲームやリザルトなど,極端なことを言ってしまえば「オマケ」なんですよ。立ち位置をチェックする程度で良いわけですからね。もっと言ってしまえば,リーグ戦を見ているときには,「代表」なんて眼中にはないわけです。


 なんですがね。


 スポーツ・メディアの皆さんはワールドカップ開幕直前とほぼ同じ,場合によってはそれ以上に「代表」を絡めて記事をお書きになろうとしている。ワールドカップ開幕前には,「ローカル・オブ・ローカルズ。」というエントリを書いているのですが,状況はそれほど変わっていない,と言いますか,かえって悪くなっているような気もします。そこで,今回はまったく同じタイトルを使ったわけではないけれど,「再び」というタイトルを付けてみたわけです。


 スポーツ・メディアは立ち上がりの時期だからかも知れないけれど,リーグ戦のすべてを「代表」へと結び付けようとしている感じがします。誰が選ばれるとか,誰の活躍が代表へとつながるとか。バカバカしい限りです。ポテンシャルを秘めた選手が代表に選出されるのは誇らしいことだけれど,そのためだけにスタジアムに足を運んでいるわけではない。ファースト・プライオリティは,クラブが勝利の凱歌をあげること。その大前提を無視してもらっては困る。


 代表チームが,さも独立したクラブ・チームであるかのように認識されている状況では無理からぬことなのかも知れません。しかし,そんな“ネイションワイド”の発想はリーグ戦とは親和性が低いことは間違いないと思う。ホームタウンというアイディア自体が,ローカリズムを基盤にしているのだから。


 となれば,全国規模を常に意識しているメディアに失望したりするよりも,自分の地元で活動してくれているメディアに,もっと頑張ってくれ!とエールを贈る方が建設的だと思うのです。地元であることのアドバンテージを最大限に活かしたメディアならば,クラブを追いかけているひとたちは,自然と全国紙よりも地方紙に手を伸ばすはずです。


 ・・・ことリーグ戦にあって,全国紙の書き方は(日経の吉田さんなど,しっかりゲームを見ている番記者さんが書く鋭いコラムを除いて)あまりアテになるものではない。そもそも,「戦評」と呼ばれる記事は,どう見ても自分たちで書いてはいない。プレス・シートに座っているとしても,何を見て,何を感じているのか,マッチ・レビューから受け取ることはできないのです。であれば,しっかりと試合を見ていることが感じられる地方紙の方がキメが細かいし,リーグ戦の本質を突いている。代表,代表とあまりに喧しい昨今,あらためてそう思うのであります。