基盤としてのプレッシング。

FIFAワールドカップのおかげで,ものの見事に読み忘れていた中田さんのコラム(スポーツナビ),その2ページ目を読んでいて,明確に像を結んだことがありまして。


 守備戦術というと,プレッシングか,あるいはリトリート(カウンター)か,という二分法で考えがちです。ですが,中田さんがインタビューしている林雅人さん(KNVB指導者資格1級を取得された方だそうです。)のコメントには,単純な二分法を打ち破る,非常に簡潔,でも的を射抜くかのような感覚があります。


 ちょっと長くなりますが,要点と思われる部分を引用してみますと,

 プレッシングサッカーと言うと前からFWがガンガンプレスをかけ、ほかの選手が連動するイメージがあると思います。しかし自分たちが下がって、相手に主導権を握らせておいて、ボールがどこか自陣に(例えば中盤に)入ってきたときに一斉に連動してプレスをかけるのもプレッシングサッカーと言います。・・・中略・・・試合の状況によってはどんなチームでもプレッシングサッカーをやらないといけない場面が出てくる。プレッシングに限らず、すべての練習は必要です。(「オランダサッカー 5つのエッセンス(2/3)」:中田徹の「オランダ通信」(スポーツナビ)より引用)


となるわけですけれど。・・・何か気付かれたことはないでしょうか。


 浦和が2005シーズンの立ち上がりにおいて,予想外の失速に見舞われた,その最大の理由を理解する鍵がここに隠れているような気がするのです。


 2004シーズンにおける浦和でのプレッシング・フットボールは,前線から積極的にプレッシャーをボール・ホルダーに対して掛け,ミッドフィールドと連携しながらできるだけ高い位置でのボール奪取を意図する,という形であったように思います。“ハーフコート・カウンター”,あるいはショート・カウンターというフットボール・スタイルに関する表現がありますが,まさしくそんなスタイルを前面に押し出すことで圧倒的な破壊力を見せ付けたのが,2004シーズン後半だったように思います。


 そのボール奪取位置を若干自陣側にシフトさせようとしたのが,2005シーズンだったように思うのです。


 恐らく,その前提となったのは「ボール・ポゼッションを高めていく」という方向性だと思います。自分たちで主導権を掌握しながら,パス・ワークによって相手守備ブロックに揺さぶりを掛け,隙間を作り出していく。その隙間を突くときにリズムを一気に変化させ,加速をかけていく。そんな基本イメージだったと思います。思うのですが,その基本イメージにおいて“プレッシング”という要素がまったく不必要になったわけではない。ただ,ボール奪取を仕掛けるポイントが変更され,そのことで前線,あるいは中盤に求められるプレー・スタイルがモディファイされるだけのことだったのだろうと思うのです。林さんがヘラクレスの例を引いていますが,恐らくそんなイメージをイニシャルとしてコーチング・スタッフは持っていたのでしょう。


 では,「受け取る側」がどうイメージしたか。“リトリート”という言葉をプレッシングという考え方とは対立するものとしてどこかで無意識にせよ意識してしまうと,相手ボール・ホルダーをしっかりと受け止めるべき最終ラインとディフェンシブ・ハーフとの連携が不明確なものになってしまう。プレッシングを組織として仕掛けていくべきポイントを修正したのであれば,そのイメージを明確にしておかねばならなかったのだけれど,残念ながらディフェンスに入っていくタイミング,イメージがしっかりと共有しきれないままにシーズンに突入してしまった,ということなのだろうと感じます。


 ・・・結局,ボール奪取を仕掛けていくポイントがハーフウェイ・ラインを中心に自陣側にシフトしているのか,それとも,相手陣内に侵入しているポイントに設定されているのか,という違いであったり,ボール奪取を仕掛けていくプレイヤーが前線,オフェンシブ・ハーフとディフェンシブ・ハーフで構成されるのか,それとも最終ラインをベースとしながらディフェンシブ・ハーフ,オフェンシブ・ハーフで構成されるのか,という違いがあるだけのことで,プレッシングという考え方がまったく不必要になるわけではない。むしろ,基盤を構成する要素となっている,という理解で良いように思います。


 浦和の主戦兵器は2004シーズンに形作られた。


 その進化形として,2006シーズン仕様の,とあるライターさんが「ハイブリッド・フットボール」と表現したフットボール・スタイルがある。とすれば,局面でのプレッシングは当然のこととして浦和のストロング・ポイントを構成することになる。加えて,前線に“スピード”という要素が再び備わることで,90分プラスという枠の中で,仕掛けに対する選択肢が拡がってもいくはず。中断期間明けのチームがどのようなスタイルを見せ,どのようなリズムを刻んでくれるのか,楽しみであります。