距離感という原点。

大ざっぱに言ってしまえば,「戦術的深化」を遂げているチームがしっかりとセカンド・ラウンドを勝ち抜いてきたな,という感じです。


 バランス,というとちょっとネガティブな響きがするかも知れませんが,そのポイントが非常に高い。


 こちらの記事(YOMIURI ONLINE)にもあるように,一見すると守備面を意識する大会になっているような感じがしますが,単純に最終ラインを下げて,リトリートを徹底的に押し出すというわけではない。イングランドが恐らく大きな例外として位置付けられるでしょうけれど,最終ラインを攻撃の起点としても意識するような戦術を徹底しているチームはあまりなかったような感じがします。オリンピアシュタディオンに駒を進めたアズーリにせよ,最終ラインの堅牢さは確かに伝統的な「カテナチオ」の文脈で読み取れるけれど,むしろ中盤の機能性が以前とは大きく違っている。低い位置からビルドアップしていく,という「遅攻」を意識した守備戦術ではなく,高い位置からの速い仕掛けを意識した戦術を徹底している。「攻撃的」であろうとするための守備戦術であり,実際にはミケルス〜サッキへと引き継がれていったトータル・フットボールのエッセンスである“プレッシングからのボール奪取”という要素が徹底された大会だったようにも感じます。


 と,ワールドカップなどを見ていると,フットボールの面白さや深さを実感するわけです。


 ノンビリじっくり,いままで大ざっぱに見ていたゲームを見直して,面白いゲームに関しては適宜書いていこうかと思っておりますが,大会期間中はディビジョン2のゲーム,それに関することも同時に書いてきました。


 その種明かしをしてみようかな,というわけです。


一方で戦術的な深化,言い換えれば“ディファクト・スタンダード”化が進んだ大会だったとは思いますが,もう一方では参加チームそれぞれの「個性」がはっきりと感じ取れる大会であったようにも思います。


 そして,もうひとつ。


 ファースト・ラウンドを勝ち抜いてきた多くのチームは,自国リーグの地位をしっかりと確立している,ということ。とは言え,それは必ずしも“ビッグクラブ”があるかどうかを意味するものではないし,そのビッグクラブがビッグイヤーやUEFAカップを掲げたことがあるかどうか,そしてその回数を問うものではありません。


 「どれだけフットボールが日常に根付いているのか」,という言い方でもいいでしょう。


 極論してしまえば,3部リーグであろうと,アマチュア・リーグであろうと構わないと思います。自分が住んでいる街に根ざしているクラブ,そのクラブが主戦場とするスタジアムに足を運び,クラブと喜怒哀楽のすべてを共有することが日常となっているひとの多さが,最終的にはその国のフットボールのレベルを引き上げていくのではないか,と感じるところがあるのです。
 そこでは,レベルの高低など,ある意味では関係ないだろうと思います。むしろ,ひとつひとつのプレーがパブであったり居酒屋であったり,あるいはファミレスのテーブルでもいい,話題になる回数が多くなるということが,結果として大きな意味を持つのだろうと思うのです。一方で,「見ているひと」に自分が理想とするフットボール・スタイルの具体像を描かせ,もう一方の「実際にプレーしているひと」は見つめるひとの評価に応えられるだけのプレーをしていかなければならない,という意味でのプレッシャーが生まれてくる。そのきっかけを,身近なリーグが提供してくれているはず,と。


 国際舞台だけに注目していると,時に基礎構造をすっかり忘れてしまうようにも思います。


 ですが,しっかりとした基礎構造を作り上げることができなければ,上屋構造物の強度が100%引き出せるわけではない。どれだけ遠回りであろうとも,「基礎構造」を強くしていくことを考えなければ,本当の意味でのリーグ戦のプレステージ,強い代表チームというものが手に入れられるのではないか。
 単純にフットボール・フリークとして,中断期間があまりに長いことにシビレを切らしてしまった(かなり早い段階から,スタジアムの雰囲気への禁断症状が出てしまっていた),ということもありますが,フットボールはテクニカル・スキルや高い戦術理解度だけが魅力の中核なんかじゃあない。むしろ,自分の近くにあるからこそ感じられる,面白さであったり魅力というのもあるはず。
 いわゆる「一流」レベルからすれば物足りないかも知れないし,迫力もないかも知れない。でも,思う存分「思い入れる」ことができ,実際に足を運べるリーグというのはそれだけでも大きな意味のあるものだと思う。


 「世界」との距離感は忘れてはいけない。どうすれば追い付けるのか,どの部分がストロング・ポイントになりうるのか,ということを常に意識しておくことも重要だとは思う。同時に,できるだけ自分の軸足は身近なところに置いておきたい。
 高いレベルのフットボールと,自分が存分に思い入れることのできるフットボールとの距離感。その距離感を原点にしながら,実際にスタジアムに足を運ぶひとそれぞれが,理想のフットボール・スタイルを描き出していく。それが日常の中にしっかり組み込まれるようになると,本当に強さを持ったチームが出てくるのではないか。そんな感じがするのです。