プレステージ。

西部さんのコラム(スポーツナビ)を読みながら,ちょっと考えてしまうところがあります。


 特定のクラブを追いかけ続けている人間とすれば,西部さんが言うことは100%理解できる。「よくぞ言った!」と思うくらいに。クラブは,JFAにリソースを提供しなければならない立場などではない。対等の立場で,日本のフットボール,そのプレステージを引き上げていくために協力していく立場にあるはず。
 ならば,相互の信頼こそが最も重要な要素であるはずなのに,その重要な要素をJFAが自ら放棄したかのようなオファーの出し方には,断固とした姿勢を貫いて良い,と感じる。どうしてもオファーを出したいのならば,契約満了を待ってから再びオファーを出せば良い。この部分について,西部さんの意見には全面的に同意できるものです。


 その一方で,図らずも当事者となってしまったオシムさんのことを考えると,JFAとクラブが対立を続けるという姿は耐えられないものではなかったか,とも感じます。西部さんは「オシムを失うことになっても仕方がないのではないだろうか」と書いておられるけれど,オシムさんがある意味泥をかぶるような形で(実質的に)オファーを受けたのは,JFAとクラブが対立を続けるという形が,不毛な争いになってしまうことを恐れたのではないか,と勝手な想像をしたりします。
 それだけに,「大義」を前面に押し出すことがいいことなのか,逡巡してしまっていたのです。


 ただ,今回のことでハッキリしたこともあるように思います。


 つまり,日本のクラブがもっと力を付けなければならない,ということ。


 もちろん,傲慢さへと堕ちてはならないが,言うべきことはしっかりとFAに対して主張していかなければならないし,そのためにも「強く」あらねばならない。代表のフットボール・スタイル,その基礎構造を構築するのは有力クラブが採用しているフットボール・スタイル,という当然のことを実現するためにも。
 財政規模の大きさや,保有戦力の充実度だけで評価されるビッグクラブなどではなく,ピッチ上で展開されるフットボールが強烈な魅力を放ち,同時に強さを見せつけられるような,本当の意味でのビッグ・クラブを育て上げていかねばならない。はっきりと言うならば,レアル・マドリーのような姿を追い求めるのではなく,しっかりとした下部組織を持っているアヤックス・アムステルダムリヴァプールのようなクラブ像を追い求めていくべきだろうと思っている。


 時間が掛かることだろうと思う。ともすれば,遠回りに感じるかも知れない。


 だが,ジャパン・オリジナルのフットボール・スタイルを構築する原動力となるのは代表監督ひとりの手腕にかかっているものではなく,ひとつひとつのフットボール・クラブ,そのクラブを支えるひとたちひとりひとりの目線にこそ,かかっていると考える。


 ・・・JFAは独自のアカデミー制度を整備するなど,若年層の強化を意識した戦略を打ち出しています。確かにひとつの解だろうとは思うけれど,決してそれだけではないだろうとも思います。それぞれのクラブがトップチームを頂点に,下部組織においても個性を際立たせていくことが,もうひとつの原動力になるべきだと個人的には感じます。
 オシムさんはどこかでそんなことを考えながら,千葉との幸せな関係を過ごしていたのではないでしょうか。体制を引き継ぐアマルさんには大きな責任がかかってきますし,もちろんほかのクラブにも大きな役割がある。


 そして言うまでもなく,来季にACLに参戦する浦和は,リーグ戦における強烈な個性を放つべきクラブ,その最右翼でなければならない。そのためには,間もなく再開されるリーグ戦においてマイスター・シャーレを頭上高く掲げること,,そしてACLへの出場権を奪取することとなった天皇杯を防衛することが求められる。そして,ACL本戦においてJリーグのプレステージを,「勝ちに行く」という姿勢によって徹底的にアピールしていかなければならない。そして,代表チームだけが遊離してしまっているかのような現状を打ち破り,代表を作り上げているのは間違いなくクラブだということを見せ付けてやりたい。そう思っています。