サイティング・ラップ。

ちょっと屋号的なことを言えば。


 モータースポーツにおける「準備」という言葉には,大ざっぱに言って2つの意味があると思っています。


 ひとつは,レース・ウィークに入るまでの準備であると思います。例えば,どういうレーシング・マシンを設計するか,というアイディアにはじまり,実際に組み上がったレーシング・マシンをどのように開発,熟成させていくか,という作業までが含まれる,非常に広い意味を持っているように思います。


 もうひとつは,レース・ウィークに突入してからの「準備」です。


 マシン・チェックや路面コンディションを入念にチェックし,いままでのセッティングの方向性が間違っていないのか,それとも気象条件などの変化に応じてインジェクションのセッティング,あるいはタイア選択を変更していくのか。言わば,決勝で「勝ちに行く」ための最終チェックをするための時間が,今回タイトルに掲げた「サイティング・ラップ」であります。ウォーミングアップ・ランがそのあとには控えているのだから,一見するとそれほど大きな意味を持つようには思えない。けれども,考え方によっては決勝を左右しかねない重要な時間を,それほど強く意識することなく使ってしまったのではないか,と感じるところがあります。


 いきなり,まるで無関係なことを書いておりますが,大住さんのコラム(NIKKEI NET Soccer@Express)を読んでいて,頭に浮かんだのはそんな感じでありました。
 というわけで,大住さんのコラムを参考書としながら今大会を(極力冷静に)振り返ってみようと思います。


 前任指揮官時代の代表チームは,「一流品のパーツを組み上げただけのレーシング・マシン」のような印象がどうしても強かった。セッティング,という重要なプロセスを踏んでいないような感じがしていたのです。


 それでも,本戦を迎えるまでの準備期間の使い方によっては,メンバーを固定しているメリットが具体的に表われてくれるのではないか。そんな期待を持っていたわけですけれど,実際には戦術的な確認,戦術的イメージを共通理解へと持っていくためのアプローチが積極的に試されたわけではなかった。加えて,大住さんも明確に指摘しておられるけれど,本戦を目前にした時期に,メンタル・コンディションを徹底的にピークまで追い込むようなインターナショナル・フレンドリーを組んでしまう。確かにそこでは「瞬間風速」的なインパクトを残すことには成功したけれど,その後のチームに深刻な打撃を与えることになるし,一度相当なピークを迎えてしまったメンタル・コンディションを本戦に向けて再び上げていくことに,必要以上の時間を必要としてしまう。


 本来,すべてを賭けるべきはスタート・ダッシュの瞬間でしょう。


 レッド・シグナルがすべて消えるタイミングに合わせて,セッティングを熟成させ,集中を高めていく必要があったはずです。にもかかわらず,本戦を目前とした,大事なセッティングのための時間を,勝負の時間として使ってしまった。


 本戦を迎えるための準備として,果たして今回のアプローチが正しかったのか,JFAとしてもしっかりとした検討をしてもらいたいな,と感じます。