ちょっと意外なはなし。

山城さんのコラム(ワールドカップサイドB:NB Online)を読んでいて,ちょっと確かめておきたくなりました。


 FIFAが現在パートナーとして契約を締結している会社は15社。


 対して,IOCはプリンシパル・パートナー契約を締結している会社が12社,サプライヤー契約を締結している会社が3社の計15社であります。面白いことに,IOC,FIFAともに15社とのパートナー契約を締結しているのみならず,双方とパートナー契約を締結しているコカ・コーラマクドナルドのような会社がある(VISAが2010年大会からは仲間入りだと思います),というところが興味深かったりもするわけですが,お互いに押さえていない事業領域があるのです。


 そう,山城さんがコラムの題材にされた,カメラ業界です。で,考えてみればパートナー契約を最も結びにくい事業領域ではないか,と思うのです。


 基本的に,FIFAやIOCのパートナーには独占権が保証されています。つまり,スタジアム内で自社以外のロゴを露出することはいかなる理由があろうと禁止される,という建前を押し通すことができるわけです。


 そこで,とあるメーカがパートナー契約を締結したとしましょうか。


 早速ですが,Associated Press(AP)やロイターのような世界的通信社,ガゼッタ・デッロ・スポルトレキップなどに代表される有名スポーツ紙が抱えるカメラマンの皆さん,その他多くのカメラマンが,いちいちパートナーになっているメーカのカメラを使うでしょうか。あり得ないはずです。自分が使い慣れているカメラをどうしても使いたい,と思うはず。となれば,ゴール裏にはアンブッシュ・マーケティングの典型例ができあがってしまうか,あるいはAD申請時にカメラ・メーカのチェックが入り,パスと同時に配布されるビブスと一緒に黒いテープが手渡されるということにもなりかねない。で,取材時には黒いテープのチェックが入る。


 こんな面倒なこと,実行しようとは思わないでしょう。


 そもそも,黒いテープ程度では,“アンブッシュ・マーケティング”を回避できない,ということをカメラがお好きな方ならば理解されているのではないでしょうか。プロフェッショナルが使うレンズのボディ。あの色は,メーカによって違うのです。たとえば白いボディを使っているメーカですとキヤノンですし,黒いボディを使っているメーカで,プロフェッショナルで使用しているひとが多いのはニコン,となるのです。さらには,ストラップという問題も浮上します。


 大規模なスポーツ・イベントとカメラは切っても切り離せない関係ではあるのだけれど,それゆえにパートナー契約を結ぶには面倒なことが起きる,ということでしょう。実際には,契約関係にあるカメラ・メーカはありません。


 とは言え,独占権を保証されていないからと言って,カメラ・メーカを閉め出すわけにもいかない。大会期間中,カメラマン諸氏の主戦兵器は自分のカメラです。食扶持を支える最も大事なエキップメントと考えても良いでしょう。そのエキップメントを整備する(最悪の場合は,代替品を貸し出してくれる)窓口は,パートナーであろうとなかろうとあってもらわねば困るはずです。スポーツ・マーケティングが徹底されているように見えて,最もマーケティングという考え方から遠いところにあるのが,サービスブースであるように思います。


 このブースに詰めているサービス・エンジニアさんの対応が良いか悪いか,ということが,ひょっとすればマーケット・シェアを変化させるファクタになるかも知れないし,もちろんメーカへの信頼をより高めることにもなる。


 恐らく,今後もカメラ・メーカがパートナー契約を締結するということはないでしょう。ですが,IMC(国際メディア・センター)で,地味ながらもメディアの活動をしっかり支えるのは,サービスブースに詰めているメーカ担当者さんであり,彼らは,見方を変えれば立派なマーケティング活動を展開しているのではないでしょうか。


 意外な話ではありますが,ちょっといい話のようにも思います。