Spain vs. Ukraine (Group H).

無敵艦隊」という形容詞とともに,高い期待がかけられてきたチームでありますが,なかなかその期待通りの活躍がワールドカップの舞台では演じられていない。


 1998年ワールドカップ・フランス大会では「悲劇」としか言いようのないグループリーグ敗退を喫し,2002年大会においてはセカンド・ラウンドに進出はするものの準々決勝でワールドカップの舞台から姿を消す。


 絶対的に不足しているという要素が見つからない代わりに,何か違和感がつきまとう戦いぶりをいままでのスペイン代表はしてきたと言って良い。


 そんなスペイン代表が,本来持っているポテンシャルを100%引き出すことができると,この初戦のような戦い方が可能になるのだな,という感じのゲームでありました。


 初戦の対戦相手であるウクライナ代表に対して,チーム全体をコンパクトに維持し,ボール・ホルダーへのアプローチが仕掛けやすい距離感を維持します。ゲーム立ち上がりの早い段階から中盤をコントロールすることによって攻撃リズムを組み立てる一方で,相手の攻撃手段を事実上,ロングレンジ・パス主体の攻撃へと限定させていたように思います。ゲーム・スタッツでもウクライナ代表が喫したオフサイド数が非常に多いことで理解できますが,その大きなファクタとして中盤を制圧されていたこと,そのために攻撃リズムに変化を付けることができずに単純なロングレンジ・パスによる攻撃だけを仕掛けざるを得なかった,という部分があるように感じました。


 早い段階でゲームのリズムを掌握したスペイン代表は,ほぼ理想的な得点経過を見せていきます。13分にはCKからシャビ・アロンソが先制点を奪取,ビジャがFKを直接ゴールネットに沈めて追加点を挙げるのは,僅か先制点奪取から4分後のことです。
 ただ,実際の点差以上にライプチヒでのスペイン代表,そのボール回しはスムーズだったように思います。ボール奪取に対するイメージにブレを感じることがなく,ボール・ホルダーに対するアプローチが常に的確であったような感じがします。高い位置でしっかりと囲い込むことでパス・コースを限定し,ボール奪取を安定した形で繰り返していたように思います。そこから少ない手数でボールをペナルティ・エリアへと運び,あるいはアタッキング・サードに侵入するかしないか,というエリアからミドルレンジ・シュートを打つ。フィニッシュへのイメージもまた,明確なものを持っているから,全体が前掛かりになった不安定な状態でウクライナに攻め込まれる,という形を最小限に抑え込むことができていたように思います。


 後半,ウクライナディフェンダーが退場処分を受けたことによって数的優位を構築すると,さらにスペイン代表のパス・ワークは正確性と鋭さを増していきます。決勝点となったフェルナンド・トーレスの得点,その直前のプレーはまさしく「理想的展開」と言うべきものでしょう。
 中盤でボールを保持していたウクライナに対し,左アウトサイドとディフェンシブ・ハーフが連携してアプローチをかけ,パス・コースを絞り込んでいく。ウクライナはたまらずボールを縦に打ち込んでくるが,前線にいるパス・レシーバに対して逸早くアプローチを仕掛けていたプジョルがボール奪取に成功する。プジョルは迷うことなくセンター・フィールドを攻め上がっていく。
 そのあとの,戦術交代によって後半からピッチに立っていたラウル,フェルナンド・トーレスとのスペースを強烈に意識したダイレクト・パス,その交換の中から相手守備ブロックを切り裂き,シュート・コースを作り出す一連の流れは,驚くほど流麗だったように思います。


 ・・・スペイン代表は,これ以上ないスタート・ダッシュを決めたように思います。


 短期決戦で重要な要素となる「勢い」を味方に付けることができたようにも感じます。第2戦にこの勢いをしっかりと持ち込むことができるなら,彼らが「待ち続けたもの」が視界に収まるかも知れません。