言葉の重み。

競技場でその場の空気を感じながらフットボールを楽しめるならば,コメンタリーというのは恐らく要らないでしょう。


 その意味で,個人的にコメンタリーにお願いしたいのは,すごく難しいことなのだろうけれど


「その場の空気を感じたなりに表現してほしい」


ということです。


 でも実際には,十分に映像を通して理解できるようなことを描写しているひともいるし,あるいはガイドブックか,それともリーフレットに書いてあるようなことを語り倒してしまうひともいたりする。確かにフットボールも映像素材のひとつに過ぎないのかも知れないけれど,フットボールに対して好意的な感情を持っていることがダイレクトに伝わるひとであってほしいな,と思うわけです。ラジオだと,ある程度徹底して起きていることを描写していくことも求められると思います。野球中継が最たる例ですよね。ですけど,TV中継ですと,カメラ・ワークの問題はあるにせよ起きていることはある程度把握できる。となれば,どう起きていること(映像)を引き立たせることができるのか,が求められるのでしょう。実況テクニックどうこうであったり,無理に演出するどうこうではなく。


 そういう部分で,フットボールを愛してくれていることがハッキリ理解できたのは最近フットボール中継からは遠ざかっているTX,そこで実況を担当されていた(と言うより,“ダイヤモンドサッカー”のパーソナリティと言った方が通りが良い方もおられましょうか。)金子勝彦さんだったり,久保田光彦さんだったように思います。


 そして,フットボールに対する愛情とともに,サポータ的な熱さを感じたアナウンサーはやはり,NHKの山本浩さんだったな,と感じます。


 彼らの実況には,言葉の端々にフットボールに対する深い愛情を感じられ,その目線は熱さと冷静さを持ち合わせていたような。時に,サポータかと思うような発言が飛び出したり,ビックリさせられることも多いのですがね。


 確かJリーグ初年度のこと。浦和が徹底的に勝てなかった頃のことです。


 すごく良い形でゲームを組み立てていたことがありました。そのときに実況を担当していたのが金子さんです。十分に浦和に対する共感を感じることができたのは確かなのですが,「やればできるんです!」というコメントにはちょっとガックリきたこともあったような。・・・まあ,それまでのゲームがあまりにリズムを外したものばかりであったことも作用しているのですがね。


 NHKの山本さんに関しては,ここで多くを書くこともないでしょう。


 誰もが,山本さんの言葉に共感し,どこかでフレーズを憶えてしまっているのではないでしょうか。ワールドカップが手の届きそうな,でもどこかから滑り落ちていきそうな時に代表戦を多く実況された方です。そんな山本さんですが,2002年の時は競技場でのコメンタリーは担当せず,スタジオでのダイジェスト番組で解説を担当されている方とのトーク・セッションを担当していたように記憶していますが,実際の中継映像を見ているよりも楽しかったような気がします。フットボール・パブでたまたま専門家が隣り合ったような感じで。ラウンドテーブルにパイント・グラスでもあったのか,と思うほど,皆さんのコメントが滑らかだったことを憶えています。


 それはともかくも。


 目の前にいるプレイヤー,そして競技自体への深き愛情や想い,そんなものが隠れているがゆえの「言葉の重み」。そんなものを強く感じられるコメンタリーに出会うことができるのか,そんな部分もワールドカップの楽しみであったりするような気がします。