Thank you, boss!

「速く、激しく、外連味なく」。


 浦和のフットボール・スタイルを端的に表現するキャッチフレーズとして,就任以来掲げ続けられているものですが,犬飼社長によるクラブのハンドリングもどこか,このキャッチフレーズのような印象を持っています。


 恐らく,犬飼社長の中には,明確な理想像がすでに描かれているのだと思います。


 浦和というクラブを地域に根ざした総合型スポーツ・クラブとして確固たる存在とする一方で,そのコアとなるべきトップ・チームに明確な「強さ」を求め続ける。そして,国内的な部分だけを意識していたJリーグにあって,かなり早い段階から「アジア」という市場を意識し,2005シーズンに天皇杯を制したことで現実にアジアを市場として捉える端緒をつかむ。
 自身もフットボーラーであったことから,フットボーラーの意識を深く理解し,またフットボール・クラブを支えるひとたちの意識にも理解を示している。一方で,ビジネスの世界で生きてきた経験が,どこかで実業団時代の名残を感じさせる運営を続けるクラブが多い中,浦和に“フットボール・ビジネス”という部分を強く意識させるクラブ・マネージメント手法を持ち込ませ,クラブとしての基盤を強めていく。結果,独立採算制という“営利社団法人”ならば当然の原則に立ち戻るかのような決断を実行に移す。


 ・・・もちろん,「サービス」が過ぎると思うこともありました。


 本来ならばコーチング・スタッフ,あるいは強化部門の専権事項だろうと思える領域にまで,歯に衣着せぬ直截的なコメントをメディアに対して残してしまうために,アウトサイダーとして記事を読んでいる立場である私がかえってハラハラするようなこともあったように記憶しています。


 それでも,フットボールを愛するひとがトップに立っていることの幸福を存分に享受できたのではないか,と感じています。タイトルに使った“boss”という表現は必ずしも行儀の良いものではありません。ですが,犬飼さんのスタイルを見ていると,「代表取締役」であるとか「代表」という役職を使うことにどこか違和感を感じてしまいます。経験豊かなビジネス・パーソンとしての目線とフットボール・フリークの目線を合わせ持った経営手法をとられていた犬飼さんに対し感謝を込めて,と思うと,これ以上の表現は思いつかなかったわけです。


 ニュースリリース(浦和オフィシャル)によれば,後任には代表キャリアを持つフットボーラーでもある藤口さんが就任されるとのこと。そして,今回犬飼さんとともに横山さんも取締役を退任されるとのことです。そして,こちらの記事(日刊スポーツ)を読むと,犬飼さんはJリーグ専務理事に就任の方向のようです。クラブ・マネージメント経験を存分にJリーグ全体にフィードバックしてほしいと思っています。