ふたつのパワーバランス。

ひとつのバランスを端的に言ってしまえば,“3と4の関係”であります。


 3バック・システムを採用しているチームの生命線は,ひとつにはアウトサイドがどれだけ攻撃の起点として有効に機能できるか,という部分にあるように思います。そして,攻撃的な部分を考えるとアウトサイドはできるだけ高い位置でボールを受けたい。相手守備ブロックを縦方向に押し込むと同時に,横方向に引きずり出すためには,アウトサイドの機能はかなりバイタルであるように思えます。


 しかし,相手が4バック・システムを採用している場合には,アウトサイドが窮屈なプレーを強いられる局面が増えてくることになります。特に今季採用している3−6−1(3−4−2−1)を想定すると,4バック・システムがかなりの確率で機能するであろうことが見えてきます。


 CB2人がFWをチェックし,SBはアウトサイドを抑え込む。ディフェンシブ・ハーフは前線や攻撃的MFと連動しながら中盤でプレッシャーを絶えず掛け続けることでボール・ホルダーのミスを誘い,極力高い位置でのトランジションを意識する。ナビスコカップ予選リーグにおけるFC東京のゲーム・プランは概ねこのような感じであったと思います。そしてこのゲーム・プランは前任指揮官が徹底していたフットボール・スタイルとかなりの相似形を描くものでもあると感じます。


 だからと言って,3が4に劣るという考え方に落ち着く話でもない,と同時に感じています。


 あくまで,静的な部分で考えた場合の「相性」だからです。


 言い換えれば,実際のプレーの中でどう4バックに対処していくかという部分の戦術的なイメージがしっかりと構築できれば,実際には3バック・システムと4バックのハイブリッド版のような形へと90分プラスという時間枠の中で巧くシステムをハンドルしていくことができるのではないか,と感じているのです。守備ブロックが積極的に攻撃参加することで相手のマークを混乱させると同時に,リスクをしっかりとコントロールするべくディフェンシブ・ハーフが時間帯によっては最終ラインに入って相手のカウンター・アタックに対処する。また,相手SBの攻撃参加を抑え込むために,いわゆる「ツルベの動き」をより強く意識する必要が出てくるように感じるし,その中でディフェンシブ・ハーフとアウトサイドの強い連携が求められる。恐らく,そういう戦術的なイメージが共有されると“3.5バック”というべき布陣になっている時間帯が多くなっていくのではないか。また,アウトサイドが相手SBによって窮屈さを感じているのであれば,中盤とのパス交換を通じてSBをアウトサイドではなく,逆に中央付近に引きずり出すことでプレー・スペースを切り開くことも必要になってくる。


 「対戦相手」とのパワーバランスを考えれば,3をベースに新たな戦術的なバインドをかける必要がある,と言えそうです。


 ただ,チームの戦力バランスを考えれば“4バック・システム”をベースとした守備戦術の確認ということもこれからは重要になってくるのではないかとも思うのです。浦和の戦力的な重心を考えると,やはり中盤でしょう。しかも,いまの攻撃スタイルを考えるとディフェンシブ・ハーフが大きな鍵を握るように思います。そして,このポジションには啓太選手を筆頭に内舘選手や酒井選手などのアンカータイプ,一方で長谷部選手や小野選手などのレジスタ・タイプがひしめき合っている。どう組み合わせるか,という部分で4バック・システムへの可能性が見えてくるのではないか。


 FC東京戦のスコアレス・ドローは,浦和が持っている戦術的な拡張性を考えるきっかけになるように感じるのです。