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創設以来,シルヴァーウェアとは無縁だったクラブ。


 そんなクラブが,2005〜06シーズンにいたって初の欧州タイトルに王手をかけるまでに上り詰めた。


 確かに2005〜06シーズンはFAカップにおいても準決勝に進出するなど,クラブとしてのポテンシャルは高まってきているようにも思います。ただ,クラブとしての総合力が試されるリーグ戦,そのリーグ戦において獲得してきたプレミアシップ・ポイントを冷静に考えれば,UEFAカップ奪取を現実的な射程に収めるためには「非合理な何か」を積極的に呼び込む必要のあるチーム状況と評価せざるを得ないようにも感じます。


 ですが,実際には対戦相手であるセビリアに主導権を握られてしまいます。


 相手のモチベーションを受けて立つ,という形ではありません。むしろ,自分たちがファイティング・スピリットをピッチ上に表現する前に相手のリズムに乗せられた,という形のように見えます。そんな中から1点のビハインドを負い,ハーフタイムを迎える。
 準決勝までのボロならば,十分以上に逆転可能な得点差であるように思えるのですが,フィリップス・スタディオンでは一度手放した流れを取り戻すことができずに後半を迎えてしまいます。78分に追加点を奪われるとゲーム終盤の84分にも失点を喫し,ロスタイムにも追加点を奪われる。


 ・・・決勝の舞台として用意されたのはフィリップス・スタディオン。攻撃的な部分がクローズアップされがちなエールディビジ勢にあって,カップ戦巧者の印象が強いPSVアイントホーフェンが本拠地としている競技場であります。欧州カップ戦,しかも決勝戦ともなればPSVのように「現実主義的な」ゲーム展開になるだろうな,と思っていただけに,正直言ってこのファイナル・スコアは意外なものでした。イングランドびいきとしては,かなりヘコむスコアでもあります。


 来季からイングランド代表監督に就任するスティーブ・マクラーレンとしても最後のシーズンですし,有終の美を飾る最大のチャンスがめぐってきたようにも見えます。実際,決勝戦前にはそんな考え方をちょっとしてもいました。


 ですが,時にそういう意識がネガティブに作用することもあるような。


 そして,今回の決勝戦はネガティブが出てしまった典型例かな,と思います。「特別なゲーム」という意識が強すぎることで,必要以上に対戦相手の姿が大きく見えてしまう。緊張感が自分たちのパフォーマンスを引き出す方向に作用してくれるのではなく,むしろ徹底してスポイルする方向へと作用してしまう。となれば,望むと望まざるとにかかわらず,相手のモチベーションを受けて立つ結果になってしまう。もう,悪循環を説明するのにこれ以上のケースはないような気がします。


 しかし,彼らにとってUEFAカップの決勝戦を経験したことは大きな財産になるはずです。こちらの記事(スポニチ・ワールドサッカープラス)マクラーレン監督のコメントが紹介されていますが,確かにマクラーレンさんが言うように中堅クラブであっても欧州カップ戦で互角以上の戦いが展開できることが体験できたのは,来季に向けて最大の財産かな,と思います。


 今季はFAバークレイ・プレミアシップでは14位というポジションに終わりましたが,来季は,「もういちど欧州の舞台に帰っていく」という明確な目標が立てられるはずです。確かに,良い形で冒険を終わることはできなかったけれど,クラブが一丸となってクリアすべき明確な目標が見つかったのが,この決勝戦だったという見方もできるように思います。