STRIKE BACK.

最初にちょっと観光案内のようなことを書きますと。


 ロンドンでは基本的にチューブ(地下鉄)移動が便利なのですが,例外的に近郊電車を利用した方が便利なところもあります。その典型例がホワイト・ハートレーン競技場であります。金融街シティへの玄関口でもあるリヴァプール・ストリート駅から,例えば“エンフィールド・タウン”行きの近郊電車を使って20分くらいだったでしょうか。


 ドアの開閉ボタンを操作してホントに何もないようなホームを降り,ひとつしかない階段を下りていくと,この駅が熱狂的なサポータを抱えるクラブのお膝元にあるとはちょっと信じられないほど小さい駅であることに気が付きます。駅を出て目の前にある通りを右方向に歩いていくと,大きな道路にぶつかります。確か,その道沿いにはサポータたちが集うのでしょう,いかにもなパブがあったように記憶しています。まわりを見回した後にちょっと視線を道路の反対側,そして斜め右上方向に飛ばすと,まわりの(失礼ながら)お世辞にも瀟洒とは言いかねる家並みとはまったく違う,あまりにモダンな構造物が目に入ってきます。そう,競技場の屋根であります。


 多分,電車を利用したりしてスタジアムに足を運ぶひとも多いのでしょうが,それ以上に自分の家から歩いていったり,あるいはダブルデッカーに乗って近所のエリアからスタジアムを目指す。そんな,「地元密着型」のクラブなのだろうと感じていました。


 前置きでお分かりでしょうが,今回はトットナムの話をしてみようかと思います。


 歴史的なことを言えば,アーセナルよりも設立時期は早い1882年。ですが,クラブの栄光という部分ではヴィクトリア・ライン沿線のクラブの後塵を拝しています。最も安定した成績を残しているフットボール・クラブという評価を受けているノース・ロンドンのライバルと好対照を成すかのような,強烈なまでのスロー・スターターという表現でもいいと思いますし,あるいはポテンシャルを100%解き放つことができずに不完全燃焼を繰り返してきてしまったクラブ,という見方もあるかも知れません。ですが,1980年代にはグレン・ホドル,1980年代後半から90年代前半には「悪童」ポール・ガスコインギャリー・リネカー,そして90年代中盤以降にあってはテディ・シェリンガムダレン・アンダートンなどのイングランド代表選手が在籍するなど,決してタレントに恵まれないクラブではありません。でも何かが足りないのか,リーグテーブル上位に顔を出すことが少なかった。ある種の不思議さを感じさせるクラブであったように思います。


 そんな歴史にピリオドを打つきっかけに2005〜06シーズンはなってくれるのではないか,と感じます。トットナム・ホットスパーは,今季のプレミアシップ・ポイントでは宿敵(と恐らく思い込んでいる)ガンナーズを上回っています。確かに上位3チームを見てみると,消化ゲーム数はスパーズよりも1ゲーム少ない35にもかかわらず,負け数は圧倒的に少ない。間違いなく逆転はできない位置にありますが,今度はUEFAカップ出場権エリアに視点を切り替えてみると,負け数で十分に優位な立場を築いています。


 このまま行けば,欧州カップ戦への出場権を確保できる。


 となれば,かなり気が早い話ではありますが,FAカップを掲げた1990〜91シーズン以来のメジャー・タイトルを本気で狙いに行くべきシーズンが来季ということになるのではないでしょうか。ハイブリーへの猛烈な対抗心を持ちながら,なかなかクラブの実力が拮抗することがなかった90年代〜2000年代前半を思うと,間違いなく反撃の機会が訪れたのではないか,と感じます。サポータの想いはさらに強いでしょう。この勢いをしっかりと欧州カップ戦,そして国内メジャー・タイトル奪取へと持ち込んでほしいと思っています。