欧州カップ戦のことなど。

2004〜05シーズンに比較すると,確かに扱う回数は少なくなっておりますが。


 イングランドびいきとしては,やはり気になっております。


 特に,シビアなゲームをしっかりと勝ち抜く安定感を歴史的に持ち,かつてはシーズンを通して無敗を通すという偉業を達成したクラブが決勝の舞台に近づきつつあることは,うれしい限りであります。本来の主戦場であるプレミアシップではUEFAカップ出場権を確保できはするものの,CL出場権を獲得できる4位以内に食い込むことは現状ではできていません。上位6チームでは,4位につけているトットナム・ホットスパーを除いて35ゲームを消化しているわけですが,その上位グループの中で最も落としているゲーム数が多い。「安定感」であったり,守備の堅牢さで知られてきたクラブとしては,ちょっと意外なスタッツを残しています。言ってしまえば「らしくない」戦い方を見せてしまっているプレミアシップとは異なり,欧州カップ戦決勝トーナメントでは,ガンナーズが歴史的に見せてきたスタイルが存分に表現されてきているように感じます。1回戦ではレアル・マドリー,準々決勝ではユーヴェを相手に“ONE-NIL to the Arsenal”というフレーズに代表される堅い守備をベースとしたチーム戦術がしっかりと機能しているように感じます。ただ,過去においては最終ラインの安定感が強調される傾向が強かったように思います。その安定感ある守備を組織的に,しかも徹底して仕掛けていくことで勝ち上がってきているのが今季のガンナーズではないか,と感じています。


 いつも読ませていただいている木村浩嗣さんのコラム(スポーツナビ)では,フットボールのコーチならではの視点でガンナーズの戦略を分析されています。木村さんは圧倒的な走力を背景とする全員守備,という表現を使われていましたが,私としては現状のガンナーズが採り得る戦略は消去法的選択に基づくものではなかったかと思います。ここ数季,ガンナーズはスムーズな世代交代に失敗しているという評価から逃れられなかったように思います。その評価を大きく覆したのが今季だったように思いますが,その裏返しとして戦術的な熟成はそれほど進んでいないのではないか,と感じます。プレミアシップ・ポイントで不本意なリザルトを残しているのはこれが大きな原因ではないかと。


 そんな状況ではあるけれど,欧州カップ戦では順調に勝ち進んでいる。それゆえに,伝統的に持っている組織守備の意識とアーセン就任以降のパスワークを主体としたスタイルをディフェンシブな方向へとシフトさせるという戦略を組み合わせ,少ないチャンスをモノにするというイングランド的な勝負に徹したのではないかと思うのです。


 時にガンナーズのスタイルを“Boring”と評価するひともいたし,実際にそういう時期もあったと思う。しかし,ガンナーズイングランドで最も安定した成績を残してきている,ある意味では最も成功しているクラブである背景には「リアリスティックなフットボール」を躊躇なく展開できる強さがあるのだろうと思っています。ただ,いままでの欧州カップ戦では残念ながらガンナーズの個性を強く感じることはできずにいた。今季は,らしさを徹底的に押し出しながらスタッド・ドゥ・フランスに駒を進めるかも知れない。


 もうひとつのセミ・ファイナルではバルサミランをリードした形でセカンド・レグを迎えています。ひとりのフットボール・フリークとして,またイングランドびいきとしてどこがファイナルに駒を進めるのか,かなり緊張感あるセカンド・レグになるなと期待しています。