対福岡戦(06−07A)。

戦術的なバインドが先んじているわけではない。


 しかし,プレイヤーが持っている戦術的なイメージがしっかりとリンクすることで難しいゲームを制し,勝ち点3を奪取することに成功した。確かにまだクリアすべき課題はあるように思うけれど,落としてはならないゲームを苦しみながらもモノにしたことは,大きく評価すべきように思う。


 相手の戦術はある意味非常に明確なものであり,フォーメーションはその組織戦術を端的に表現していたように思う。
 1トップをしっかりとマークするためにセンターDFを2枚配する。サイドは中盤と連携しながらアウトサイドを警戒し,中盤での展開力を削ぐ。そして,中盤はボール・ホルダーに対するファースト・ディフェンスを強く意識してか,アングルをほとんど持たないフラットな陣形を持つ。全体をコンパクトに保持しながらプレー・スペースを潰す。中盤での自由度を奪うべくコレクティブに守備を展開しながら,タイミングを狙って鋭くカウンター・アタックをかけるという戦術イメージを描いているだろうことが想像できた。


 しかし,ゲームの入り方は決して悪いものではなかったように思う。


 ワンタッチ,あるいはツータッチ程度で積極的なパス交換を仕掛けていくことで,中盤でのプレッシャーを避けながら攻撃を組み立てる,という意図が見えていた。特に,前半25分前後,あるいは後半開始直後の攻撃には,ポゼッションをベースとしながらディフェンシブな組織戦術を打ち破る可能性を感じる部分があった。
 とは言え,相手最終ラインは丁寧な守備応対を繰り返していたことでラストパスが良い形で収まらず,フィニッシュに精度を欠いたりリフレクションをうまく拾えない,という状況に陥る。フィニッシュの手詰まり感がパスワークに波及し,前節のように足下を狙ったパスが増えていく。攻撃のリズムが悪くなってしまうことで相手のカウンター・アタックの鋭さが増していったようにも感じる。


 ともすればチーム全体のダイナミズムが奪われるような悪い流れを断ち切ったのが,戦術交代だったように思う。マークの再確認に要する時間を利用して守備ブロックのクラックを作り出し,一方で「縦」への意識を再びチームに持ち込む。アウトサイドからのスピードに乗った突破が守備ブロックを引き出し,中央へと入り込むプレイヤーに自由度を与える。
 スペースとそのスペースを鋭く突く個の速さが,中央での高さとしっかりとシンクロすることで,決勝点という結果へと結び付く。


 2ゲーム続けてシビアな展開になったわけですけれど。


 今節に関しては,前節のフォーマットを福岡が参考にしたと言うよりも,大宮が持っているスタイルに近い組織戦術を90分間プラス押し切ることを選択した,という感じかなと思います。


 キックオフ直後の初期布陣は4−4−2だったように思いますが,中盤の配置はスクエア(ボックス,あるいはダイヤモンド)ではなく,ほとんどアングルの付いていないフラット。前線から最終ラインまでの距離を可能な限り短くコンパクトに保つ一方で,ボール・ホルダーへ短時間で数的優位を構築できるように中盤,最終ラインが極力等距離を維持する。
 これで,サイドを強く意識した攻撃を仕掛けていたら,ストリクト・マンマークという部分を除外して考えると前任指揮官時代のFC東京を強く意識させるスタイルでもあるか,と。


 ただ,今節はロングレンジ・パスとショートレンジ・パスのバランスが名古屋戦よりも良かったように思います。相手ディフェンス・ラインは高めの位置を維持しようという意識があったようですが,その裏を積極的に狙う動きをすることで,ディフェンス・ラインを押し下げることには成功していたし,シャドーが積極的にスペースを突く動きを繰り返すことでチャンスを広げようとしていたように思います。


 また,今節の戦術交代は,非常に明確なメッセージを持っていたと感じます。


 「スペースを徹底的に使い,スピードを活かした攻撃で相手を揺さぶる」。
 いまの浦和ではパワープレーのように感じられるメッセージですが,よく考えてみれば過去の浦和が主戦兵器としていた攻撃スタイルを前面に押し出すことを求めたようにも感じます。ポゼッションか,縦への速さかというのは確かにフットボールのスタイルを考える上で大事な要素ではあるけれど,それ以上に重要なのはどうゲームのリズムを掌握し,ゲームを優位に展開するかという部分にこそあるはずです。そして,その大きな鍵は間違いなく,“フィニッシュ”にあります。


 ポゼッションをベースとした仕掛けが難しいのであれば,早い段階から縦に速い攻撃を強く意識することで相手を揺さぶり,ポゼッションが機能するような状況に持ち込んでいきたい。浦和の攻撃力をどう抑え込むか,という観点から,恐らく前節,今節のようにディフェンシブな組織戦術を徹底してくるチームが増えてくるはずです。
 ならば,リズムを柔軟に変えていくことで相手を揺さぶっていきたい。今節はピッチに立っている選手それぞれが持っている戦術イメージ,そしてそのイメージを具体的なものとできる高い能力がしっかりとかみ合った形ですが,そのイメージを組織としてイメージしていきたい。そのきっかけとなるゲームになってくれれば良い,と思っています。