「攻撃的」であるための要素。

今回はひさびさに,難しめの話を書いていこうかと。


 とあるメディアで,Jリーグは“カテナチオ化”しているという論旨のコラムを目にしました。


 確かに,そういうゲーム・プランを持ってアウェイ・マッチに臨んでいるクラブもあるように感じます。しかし,この方の言う“カテナチオ化”にはちょっと違和感を感じる部分もあります。


 そこで,対極に位置するだろう「攻撃的」という言葉を考えてみることで,その違和感の正体をつかんでみようかと思っています。


 昨季,プレミアシップ・ポイントを大幅に更新して“CHAMPIONS”という称号を手にしたチェルシーは,守備意識を非常に強く持っているチームであると評価することができます。しかし,単に守備的であるだけではプレミアシップ・ポイントを積み上げていくことはできない,というのも確かだろうと思います。“フィニッシュ”(=ゴールネットを揺らすこと)を常に意識し,そのために何が求められるのかというアプローチでチームが構築されているように感じるわけです。より具体的に言えば,ボールを保持した状態を基礎とするのではなく,ボールをどういう形で奪取するのかという部分をチームとしての基礎構造として捉えているように思います。攻撃の起点はボールを奪取する時点で設定されている。ならば,守備意識を徹底して高めることは攻撃的なフットボールを展開していくための前提条件だと考えて良いように思うのです。


 そう考えていくと,表面的には正反対に位置するかのようなバルサのスタイルとの共通点が指摘できるように思うのです。


 ボール奪取位置が最終ラインに近い位置にあるのか,それともハーフコート・カウンターを意識させるほどに中盤の高い位置に設定されているのか,という大きな相違点はあるけれど,「攻撃を仕掛けている段階から,守備の準備を周到にしている」というポイントでは大きく違うところはない,ということになるでしょう。攻撃の組み立て方が大きく違うために,ボール奪取位置に違いを生じはするけれど,根底に流れるアイディアにはそれほど大きな違いがない,ということにもなろうかと。


 このことを前提にして,浦和のスタイルを考えていきますと。


 2004シーズンは明らかに,プレッシング・フットボールでした。


 かなり高い位置から徹底してボール・ホルダーに対するプレッシングを仕掛け,ボール奪取までをピクチャーとして描いている。ハーフコート・カウンターを具体的に意識している守備イメージと言って良いものと思います。


 対して2005シーズンはプレッシングの軸足をボール奪取からパス・コースの絞り込みへと若干軌道修正してきたように感じます。最終ラインでしっかりと攻撃を受け止めるための予備段階として,ミッドフィールドでのプレッシングを機能させるというようなイメージだったように感じます。それは,ハーフコート・カウンターから,ポゼッションを高めながら攻撃を組み立てていくというスタイルへとモディファイしていくために必要なプロセスであったように思います。


 そして,2006シーズンであります。


 これは間違いなくサッカー専門誌のエディターさんが言うように“ハイブリッド・フットボール”だと感じます。相手の出方によってポゼッションをベースにした攻撃を組み立てるのか,あるいは中盤から強烈なプレッシングをかけることでショート・カウンターを仕掛けるような形にするのかを柔軟に変える。逆に言えば,2004,2005シーズンをもとにした正常進化形としては昨季ヴォーダフォン・カップで来日したマンチェスター・ユナイテッドのように,時間帯によって仕掛け方を変えていくようなイメージを意識しているのだろうと感じます。


 そこで冒頭の違和感に戻ります。


 コラムを書かれたひとは,横浜FMとのアウェイ・マッチを「前後分断型」であるかのように表現された。確かに,ある局面だけを切り取れば前後分断型と映らないでもないかとは思いますが,実際にはミッドフィールドが浦和の攻撃を支える重要な要素として機能している。(時に,パス・ワークに固執し過ぎるほどに)ボール・ポゼッションを比較的強く意識しているスタイルにシフトしつつある,と考えて良いものと感じます。シンプルに前線にボールを当てることを意識しながら中盤で攻撃を組み立てているときはむしろ,攻撃がノッキングを起こしている可能性すらある。そんなときには,このコラムを書いたひとが嫌がるような“キック・アンド・ラッシュ”を意識したボール回しが効果を発揮するのではないか,とまでワタシは考えています。


 長いシーズンを見据え,あるいは負ければ後のないカップ戦を戦う上では自ずと戦い方に変化が表われていくはずです。攻撃的であることが,単純にポゼッションと直結するわけではない。ましてや,攻撃スタイルと関連づけられるわけでもない。その点に目を向けることなく,そして攻撃の端緒が守備にあることを意識することなく表面的に「カテナチオ」という言葉を使われたことに違和感を持ったわけです。


 フィニッシュを明確にイメージし,アウェイ・マッチにおいても「勝ち点3」奪取を積極的に狙っているゲーム・プランをカテナチオと表現するのであれば,ストリクト・マンマークを徹底し,最低ラインとして「勝ち点1」を奪うことを意識するような戦い方をどう形容するのか。また,アウェイ・マッチかホーム・ゲームかという部分だけではなく,チームのコンディションなど多様な要素によって,ディフェンシブな戦い方を必要とする部分もあるはず。そんな要素を考えずして,単純に“カテナチオ化”というのはいかがなものか,と感じるわけです。