対横浜戦(06−05A)。

リーグ戦のゲームでありながら,どこかでカップ戦のような要素を色濃くしていたゲームであったように思う。


 厳しい守備応対を繰り返してくるだろう相手ディフェンス・ブロックに対してどのようにクラックを作り出すか,あるいは前線,ミッドフィールドの高い位置から積極的にボール・ホルダーに対してプレッシャーを掛けてくる相手に対して,そのプレッシャーをいかに回避しながら攻撃を組み立てるか,という部分に戦術的な重心を置いた攻撃だったように感じる。


 ドリブルによる単独突破を巧みに織り合わせたかのような攻撃を仕掛けるのではなく,ワンタッチ,あるいはツータッチ程度のショートレンジ〜ミドルレンジ・パスを積極的に交換する中から相手のマークをずらしていく。そのなかから決定的なクラックを作り出す,というイメージの前半だったように思う。
 一方,守備面においては攻撃面と大きく関連することだが,両アウトサイドが基本的に高い位置を維持することで,相手アウトサイドがミッドフィールドと構成するトライアングルを分断しようとするイメージを持っているように感じた。また,前線から相手ボール・ホルダーに対するプレッシャーを掛けることでトランジションからの攻撃をスローダウンさせ,同時に中央へと攻撃の方向性を限定させながらボランチ,あるいは最終ラインで攻撃を受け止めようという基本的なピクチャーを描いているように感じた。


 一方においてストロング・ポイントを積極的に押し出し,同時に相手の攻撃を効果的に抑え込むために戦術的なピクチャーを具体的に描き出す。そのバランスが,攻撃を抑え込む方向へと微妙に傾いていたのが前半であり,その均衡が攻撃方向へと傾くきっかけとなったのが,前半終了直前のセットプレーからの先制点奪取であったように思う。


 ハーフタイムを挟んで,前線へボールを供給する意識が強くなってくるであろう相手に対してスペースを消す意識を高めながら,同時にミッドフィールドでのプレー・エリアが相対的に広がることを積極的に利用しながら追加点を狙う。そんなイメージを実際にピッチ上でしっかりと表現していたように思う。
 後半開始直後に理想的な形で追加点を奪取し,その後も相手の攻撃をしっかりと受け止めながら効果的にカウンター・アタックを繰り出すことで,ゲームをコントロールしていく。
 ロスタイム突入を目前とした時間帯での失点によって,ともすればネガティブなイメージが残ったままにタイムアップか,と一瞬思ったものの,ゲームを落ち着かせながら冷静に逆襲のタイミングをうかがうという意識が,タイムアップとほぼ同時の追加点奪取として結実する。


 フットボール専門誌のエディターさんは,”ハイブリッド・フットボール”という表現を使っていたように記憶しています。その意味するところが明確にピッチ上で表現されたのが,今節ではないか,と感じています。


 前線からの積極的なアプローチは,2004シーズンのスタイルをどこかで意識させるものです。ただ,チーム全体としてハーフコート・カウンターを明確に意識しているものではない。もちろん,縦への意識は強く持っているのだけれど,その縦の意識だけを徹底しているわけではないように見受けられるのです。
 ボール・ホルダーへのアプローチがボール奪取を前提としたものではなく,むしろパス・コースを絞り込む,あるいは最終ラインへの守備負担を軽減させながら最終ラインから攻撃を組み立てていくための予備動作,のような感じに受け取れる時間帯が比較的多かったように感じます。2005シーズンは縦へのスピードだけではなく,リトリートからの組織的なビルドアップを比較的強く意識した攻撃スタイルを指向しましたが,その攻撃スタイルが熟成を経て2004シーズンの攻撃スタイルとうまく結び付いてきたような感じがしています。


 選手個々のポテンシャルを考えれば,まださらなる熟成の余地があるように感じますし,“ミッシング・ピース”が埋まれば縦へのスピードを最大限に活かしながら,同時に組織的なビルドアップの緻密さを追い求めていく,という本来的な意味での”ハイブリッド・フットボール”に近付いていけるのではないか,と感じます。


 単なる勝ち点3奪取,という結果を大きく超える意味を持ちうるゲームではなかったかな,と感じています。