進化と継承。

ちょっと屋号絡みの話からはじめますと。


 アメリカン・ルマンシリーズ(ALMS)第1戦,セブリング12時間耐久を制したのは,アウディR10でした。レーシング・フィールドにディーゼル・エンジンを真正面から持ち込むという非常に野心的なレーシング・マシンですが,しっかりとポディウムの中央を奪い取ることに成功したわけです。彼らは,R10の前にR8というマシンを引っさげてスポーツ・プロトタイプの世界を席巻しているわけですが,その経験が最大限に活かされた結果だろうと思っています。
 そして,もうひとつの大きなファクタとして“ヨースト・レーシング”の存在を指摘しておくべきだろうと思います。彼らは長くポルシェとともに歩み,ポルシェの栄光の一翼を担ってきた存在です。勝負に勝つために何が必要で何が不要か,身をもって知る立場です。彼らの経験に裏打ちされた実戦的なアドバイスがR8とアウディ・シュポルトをトップ・コンテンダーに押し上げ,R10の基礎を作り上げたのだと思います。


 さて,もうひとつご紹介したいものを。


 日本経済新聞の吉田誠一記者はコラムで,


 「はちゃめちゃの楽しさが減った点に寂しさも感じるが、勝ち点をきっちりと稼げる体質になっている。・・・中略・・・勝利を重ねることで増す落ち着き。勝ち方を知った者が漂わせる風格。試合を一つの作品として仕上げる作風が大きく変わってきている。」(日本経済新聞2006年3月26日付朝刊35面(「熟成浦和 トップの風格」)より引用)


と書いておられます。


 確かに,どこかで作風の違いを感じる部分があるかも知れません。


 「はちゃめちゃ(確か,過去においては“破天荒”という表現を使っていたような)な楽しさ」というのは恐らく,2004シーズンの猛烈な攻撃力のことを指しているのだと思います。あの時,脆さを持ってはいるものの,このスタイルを押し通してほしいというようなニュアンスでコラムを書かれていたかと記憶しています。
 その頃から見れば,確かに変わった,ように見える。でも,案外変わっていないのではないか,と思うところもあるのです。


 つまり,アウディ・シュポルトと同じように「継承された部分があるからこそ,強さを安定して発揮できるようになったのではないか」と思うのです。
 勝負の世界では,経験が間違いなくモノを言うはずです。勝つために何が求められるのか,実戦を経験することで見えてくるものがあるだろうし,勝利を積み重ねていく中でどのようにゲームをコントロールしていくべきなのか,どういうリズムで戦っていくべきなのかをつかみ取ることができるのではないか,と思うからです。破天荒さと脆さが同居していた,というのは「経験不足」ということの裏返しだろうと思います。時にゲームを巧みにコントロールし,リズムを変化させることで主導権を相手に渡さないようにする。そのために戦術的な進化を遂げたのではないか,と感じる部分があります。


 とは言え,攻撃的な部分では「浦和のDNA」とも言うべき部分は間違いなく継承されているようにも思えます。ある種の「怖さ」として認知されたものまでを削ぎ落とすことはない。むしろその怖さを最大限に活かすために,モディファイすべきところを考えていく。そんなチーム構築プロセスを踏んでいるのかな,と思うのです。進化を遂げる必要のある部分と,継承していくべき部分とがしっかりと共存しはじめているのが2006シーズン仕様のチームなのかな,と感じています。