対磐田戦(06−02)。

「戦術的なピクチャー」に対する共通認識は形成されつつあるように感じる。


 とは言え,90分プラスというゲーム全体を通してチームがコレクティブな状況を維持されているとは言えない。確かにポジショニングは意識しているものの,全体が前掛かりになったときに大きくチームがバランスを失い,逆襲の起点を提供してしまう時間帯が存在しているように感じる。最終ラインが安定していたために決定的な場面にはなりにくかったものの,中盤で積極的にパス・ワークから守備ブロックを崩すことよりもスペースを狙ってロングレンジ・パスを繰り出すことを意識していた相手に対して,攻撃の手掛かりを提供するような形になってしまっていたことは修正を要するものと思う。
 しかしながら,シャドー・ストライカーとディフェンシブ・ハーフのイニシャル・ポジションが変化して以降,中盤でのバランスが間違いなくポジティブな方向へと変化していったように感じる。ディフェンシブ・ハーフが時間帯によっては最終ラインにまで入りながらチーム全体のバランスをしっかりと維持しつつ,攻撃面では積極的なポジション・チェンジを促していく。そんな自律的な修正を経て,ポジション・チェンジがスムーズに引き出される時間帯が増えてきているように思う。


 ただ,横方向を考えると両翼にボールを散らしながら中央が守備ブロックにクラックを作り出す,というピッチを大きく使った展開が少ない,ということも確かではないか。
 後半,アウトサイドが戦術交代によってリフレッシュされてからは組織としてアウトサイドを活かす,という方向性が見えてきたように感じるが,ゲーム立ち上がりの段階ではアウトサイドにボールは展開されるものの,相手守備ブロックを崩す重心はかなりセンターに偏っていたように感じる。加えて,「組織的な攻撃」の一環としてアウトサイドを活かす,と言うよりもむしろ,高い個人能力による局面打開の一手段としてアウトサイドにボールを預けるという形が多かったように感じる。


 中盤を構成するプレイヤーのポテンシャルには疑いようがない。また,その個人能力を背景とした局面打開によって決定機を作り出していたことも確かなことだと思う。


 ただ,個人能力だけを押し出した局面打開と並行してコンビネーションによって相手を徹底的に崩す,というスタンスが必要ではないかと感じる。ダイレクトに近いパス・ワークは前後半通じて多く見られるものの,そのパス・ワークはセンター付近に集中してしまい,アウトサイドとセンターとのコンビネーションが若干不足しているように感じた。


 もっとピッチをワイドに使うことで,相手守備ブロックを横方向に引き出す動きが見られるようになれば,アウトサイドから1トップにボールを預けた後の攻撃オプションがさらに広がるのではないか。
 ピンポイント・クロス,そして積極的なダイビング・ヘッドから生まれた先制点,相手GKのポジショニングを冷静に判断し,得意なゾーンへとボールを送り出した2点目。そして,DFとGKのコンビネーション・ミスを的確に突き,右サイドへと流れながらボールをゴールマウスに冷静に流し込んだ3点目と,「高い個人能力」に支えられた得点場面は印象的なものだが,それだけに組織性というアクセントが「さらなる高み」を目指すためには大きな鍵を握るのではないか,と感じる。


 まいどの通り1日遅れであります。


 やはり,ゲーム終了を視野に収めた時間帯での失点はもったいなかったですね。
 ゲームを良い形でクローズさせることができなかったということもありますが,CKがゴールマウスロビング性のボールを供給するというスタイルではなく,ニアサイドのボックス付近にいたプレイヤーにボールを預けることでマーカーを引き出し,その後にボールを折り返すというちょっとトリック・プレーのような仕掛けに引きずられた部分があります。
 スクリーン・プレーなどもそうですが,サインプレーに対する対応は確認しておく必要があるし,このようなサインプレーは逆にチームにとっての大きな武器ともなるような気が個人的にはします。


 さて,MDPにコラムを寄稿されている小齊さんの表現で,なるほどと思う部分がありました。ちょっと引用してみますと,

 

 問題はコンパクトか否かという点だけではなく、むしろ状況に応じた意思統一という側面に存在する。(「これから待っている大きな楽しみ」(MDP273号10ページ)より引用)


という部分であります。


 「戦術的なピクチャー」という表現はよく使いますが,それだけではなく状況に応じてどういうピクチャーを描くべきかというイメージが重要というニュアンスだろうと思います。それはどこか,「リズム感」のようなものに感じられます。
 サッカーマガジンのライターさんが使った“ハイブリッド・フットボール”をイメージしてみると,前線高い位置からの積極的なプレッシングと比較的低い位置からしっかりとビルドアップしていくイメージをゲームの中で巧みに使い分ける,というものになるように思います。


 となると,両者のリズム感は違っていくような感じがします。


 ハーフコート・カウンターのリズム感はやはり,アップテンポなものになるように感じます。対してディフェンス・ラインに近い位置で相手の攻撃を受け止め,しっかりと最終ラインからビルドアップしながら相手守備ブロックを崩していくスタイルは,比較的ゆっくりしたビートを刻むような感じに受け取れます。そのリズム感と,戦術的なピクチャーとがしっかりと結び付いたときに06スペックのフットボールがしっかりとした像を結ぶのではないか。


 ファイナル・スコア以上に,どういうフットボール・スタイルを最終進化形として意識しているのか,その「予告編」のようなものが見えてきたのが今節ではなかったかな,と感じています。