第43回ラグビー日本選手権決勝。

ブレイブルーパスの3冠か,それともグリーンロケッツの2連覇か。


 ゲーム内容で言うならば,スタンディング・ラグビーを標榜する東芝府中がその持ち味を存分に発揮するのか。あるいは非常に堅いディフェンスを仕掛けていくNECグリーンロケッツが巧みにゲームをコントロールしていくのか。今回コメンタリーを担当された萩本さんがいみじくも表現されたように「東芝が立つか,NECが倒すか」という基本的な図式の中で80分プラスが推移した。そんなゲームではなかったかと思います。


 ということで,ラグビー日本選手権勝戦を取り扱っていこうと思います。


 決勝戦が行われる秩父宮,そのフィールドはヘビー・ウェットの状態にある。しかも,雨足が緩くなることはあっても決して雨が止むことはなく,ボールのハンドリングが難しくなりそうなコンディションでの決勝戦となる。スタンディング・ラグビーを指向する東芝府中としてもフィールドを徹底的にワイドに使う,展開指向のラグビーは難しい。パス・ワークで相手ディフェンスを断ち割ると言うよりも,大きくキックを蹴り出すことで相手陣内深くへ侵入することから接点でボールを奪取,そのままモールを積極的にドライブすることでトライを狙う,という戦術アプローチをとっていたのではないか,と感じる。
 対するNECグリーンロケッツ東芝府中の出足をどれだけ早い段階で止めるか,という部分に集中していたように思う。ボールがグラウンディングしていない状況では,東芝府中のストロング・ポイントにさらされ続けることになる。ファースト・タックルで確実に相手の縦への圧力を抑え込み,ボールを奪取してからは大きく相手陣内へとキックで押し返す。その繰り返しの中からチャンスをうかがう,というゲーム・プランを描いていたように思う。


 ゲーム立ち上がり,徹底した守備応対の中からリズムをつかみかけたのはNECサイドであったように感じる。FWが早い段階で東芝府中の攻撃リズムを寸断し,ディフェンスからゲームのリズムを作り上げていく。BK陣のキック攻勢によって相手陣内に侵入するものの,互いにディフェンスの意識が高く,決定的な突破を図る場面は双方とも作れずに推移する。そんな中,先制点を奪取したのはグリーンロケッツ。相手反則から獲得したPGを確実に決めていく。
 対して東芝府中はハーフタイムを迎えようかという終盤の時間帯,持ち味をはっきりとフィールドに表現する。モールを執拗にドライブしながらボールを前へと進め,グラウンディングのチャンスをうかがう。しかし,NECもモールに対する対応をしながらモールから飛び出そうとするプレイヤーへの警戒を怠らず,結果として東芝府中ゴールラインを割ることなく前半を終了する。


 流れを引き戻すきっかけをつかんでハーフタイムを迎えた東芝府中がゲームをコントロールし,その攻勢を徹底したディフェンスで跳ね返そうとしていたのがNECグリーンロケッツ,という図式に後半はシフトしていったように思う。


 前半終了直後の攻防がポジティブに作用したのか,後半の東芝府中はゲームのリズムを掌握する時間帯が長くなっていったように感じる。
 前半同様,基本的には両チームBK陣によるフェア・キャッチ,そこからキックを大きく蹴り出すことで地域を挽回するという図式の中にあったように思うけれど,ラインアウトなどのリスタートから主導権を握っていたのは東芝府中であったように思う。
 プレッシャーがきつくなっていったためかNECが犯す反則が多くなり,PGを獲得した東芝府中はスコアをイーブンに持ち込む。それでも決定的な突破を図ることは難しく,PGによって突き放すチャンスもあったものの,ゴールを決めることができずに終わる。


 後半ロスタイム,自分たちが主戦兵器としているモールに賭け,徹底してNECディフェンスにプレッシャーを掛け続けた。NECディフェンスの弱い部分を厳しく突くようにドライブをかけ,ゴールラインを割ろうと試みる。ラストプレー,その試みが成功するかのように思われたけれど,グラウンディングの寸前,ボールは前へとこぼれてしまう。


 フォース・オフィシャルが示していた,ロスタイムの目安は3分。
 ボールがこぼれた時点ですでに目安となる3分は経過している。ノックオンを宣告すると同時に,両チーム優勝を意味するノーサイドのホイッスルが響く。


 ・・・確かに得点すべてがPGであり,ロースコアに終わったゲームではありましたが,局面での攻防は非常に激しいものがありましたし,互いの持ち味が決勝戦という舞台においても存分に発揮されたのではないでしょうか。PGによる得点だけがすべて,ということはそれだけ双方のボールに対するプレッシャーが激しかったことを意味するように思います。
 ファイナル・スコアだけを取り出すことよりも,80分プラスお互いがどう戦ったかということが圧倒的に印象に残る,決勝戦に相応しいゲームではなかったかなと感じています。