2006ゼロックススーパーカップ。

リーグ開幕を1週間後に控えた時期に行われるゲーム。


 リーグ・チャンピオンとFAカップ・ウィナーが対戦する,という大会形式がイングランドフットボール・シーズン到来を告げるFAコミュニティ・シールド(チャリティ・シールド)を強く意識させ,それだけに単なるPSMとは違う意味合いを感じます。


 しかしながら,対戦相手であるリーグ・チャンピオンはリーグ開幕戦で実際に対戦する相手でもあります。目前にあるタイトルは奪いに行くのが当然ではありますが,同時に目標に据えるべきはリーグ開幕戦であって,どう「勝ち点3」を奪取するか,ということが最優先課題でもあるはずです。


 となれば,チームが持てるポテンシャルをフルに解き放つことも考えにくく,むしろ新戦力とのコンビネーション・チェックを兼ねた戦い方をしてくるのではないか。チームとしての完成形を現実的な視野に入れた「最終型プロトタイプ」としてどういう戦い方をリーグ・チャンピオンを相手に見せるのか。そんなイメージを持ってキックオフのホイッスルを待っていたわけです。


 恐らく,2006シーズンにおけるフォーマットになるだろう3−6−1(3−4−2−1)。


 コンビネーション面で熟成の余地があることは感じられるものの,ミッドフィールドでの流動性が高まればチームとしてのパフォーマンスは相当な高みに行けるはず。そんな期待を持てるものであったように思います。


 パス・ワークによって相手ディフェンス網に生じたクラックを的確に突く。


 「縦への速さ」だけを狙うのではなく,スペースを相対的に強く意識することで相手を崩すというのが今季における戦術的なテーマなのだろうと感じます。その戦術意図は,はっきりと感じ取ることができました。それだけに,“スクリーン・プレー”などのコンビネーションを重視したプレーが局面打開に使われるようになると,さらに中盤での構成力(展開力)が上がるのではないか,と感じるところです。トレクワトリスタのポジションに入ったフットボーラーも,ボールを収めてから相手からボールを隠すようなモーションを入れることでリズムを変化させ,レシーバーの位置を確認する時間を作り出してからボールを展開する,というディフェンシブ・ハーフに要求されるテクニカル・スキルを縦横に駆使しています。そのタイミングで中盤低めの位置,あるいはディフェンス・ラインに入っている選手が前線へと飛び出す。「中盤での流動性」がコンビネーションの熟成によって高まっていけば,チームとしてのポテンシャルはさらに高まるように感じるところです。


 守備面では,全体的にはゾーンを意識した守備応対を指向しているように感じられましたが,押し込まれている時間帯には明らかに「ひと」を強く意識した守備応対になっていたように感じられました。中盤との連携が問われることになりますが,中盤でのプレッシャー(プレッシング)をボール奪取をも視野に入れたものとして位置付けるのか,それともディフェンス・ラインで攻撃を受け止めることを念頭に置いたものとして考えるのか明確にしておく必要があるように思います。特に,相手がミッドフィールドでの攻防を嫌い,ロングレンジ・パスを多用する場合の対処は重要な課題になりうるように思うところです。


 ・・・とまあ,相変わらずゲーム内容に深く踏み込まない書き方をしているわけですが。


 イングランドびいきとしてはチャリティ・シールドのイメージがあってか,プレステージの高いゲームとしてスーパーカップを位置付けているところがありますので,そもそも出場資格を得たことを含めてカップを高く掲げることができたことは理屈抜きにうれしい話であります。


 2004シーズンは猛烈な中盤でのプレッシングから縦に速く展開する“ハーフコート・カウンター”を指向し,2005シーズンはプレッシングという要素を維持しつつボール奪取ポイントを比較的低く設定し,布陣を整えてから攻撃に入るというスタイルを指向した。そして,今季はそれらのエッセンスをもとに“スペース”を強く意識した戦術へと移行しようとしているのではないか,と感じます。中盤での構成力(流動性を持ってピッチを大きく使ってボールを展開していく能力)を高めることで攻撃を組み立てようとしているのではないか,と。進化の方向性としては間違いなく,「正常進化形」だろうと感じます。


 シーズン開幕に向けて修正すべき課題も当然あるだろうけれど,それ以上に「可能性」をはっきりとファイナル・スコアで示してくれたこと,そして「カップ奪取」によってポジティブなリズムで開幕戦に入っていけるだろうことを大きく評価しておきたい。そう思うのです。