内に秘めしもの。

WBC日本代表の中核を担うべき選手,イチロー


 彼のコメントには,日本代表としての矜持と勝負師としての強烈な自負心とが端的に示されていたように思います。

 「戦った相手が『向こう30年は日本に手は出せないな』という感じで勝ちたいと思う。まずはアジア予選(1次リーグ)ですね」(出典は,2006年2月22日付サンケイスポーツ)。


 いつもならばあまり闘争心を表に出さず,「不言実行」の求道者であるかのような印象を与えるイチロー選手がプレス・カンファレンスの場で見せた意外な側面。しかし,これこそがイチロー選手本来の姿ではないか。いままで内に秘めていただけの「熱いもの」がWBCをきっかけに表に出ただけなのではないか,と感じる部分があります。


 国を背負う存在である代表選手であるならば,当然のように「勝利」という結果を貪欲に求め,相手を質実ともに圧倒するという意識で戦いに臨む。


 もちろん,互いが同じ意識でグラウンドに足を踏み入れていくのだから,ゲームは必然的にシビアなものとなるだろうし,ファイナル・スコアも相手を圧倒するものとはなり得ないかも知れない。それでも,局面ベースで見れば相手を圧倒することは十分に可能だろうと思うし,逆に局面では相手を圧倒するまでには至らなくとも,局面を集積していくことで結果として相手を圧倒するビッグ・イニングを作り上げることもできるはず。


 「代表としての誇りを賭けて戦う」。


 歴史をこれから刻もうとするWBC。その舞台で大きな存在感を示そうとしているイチロー選手と日本代表。彼らの姿を見ていると,どこかワールドカップ最終予選がヒリヒリとした緊張感の中にあった頃とダブってきます。いまは本大会出場が「当然のこと」のように意識され,決勝トーナメント進出からどこまで勝ち進めるのか,などという“地に足が着いていない”話がメディアからも聞こえてくる。


 「祝祭」的な部分だけが強調されているかのような雰囲気にいつしか変わり,意識から抜け落ちてしまいそうになるけれど,リーグ戦の威信,そしてそのリーグ戦から育っていった選手たちの思いを背に戦いに臨むのが代表戦である。思えば当然のことをしっかりと思い出させてくれたコメントだな,と感じるのです。