早稲田大学−トヨタ自動車戦(追補)。

ゲームそのものに関しては,直前のエントリである第43回ラグビー日本選手権(2回戦)。をお読みいただくとして,今回は早稲田大学,そしてトヨタ自動車ヴェルブリッツの“プレー以外のこと”を書いていこうかな,と思います。


 まずは,トヨタ自動車ヴェルブリッツから見ていくことにします。


 少なくとも,ナーバスにならなければならない要素など何もないように感じていましたし,レギュラー・シーズン同様にゲームに入っていくことさえできれば問題はなかったのではないか。必要以上に恐れる必要もないし,昨季のことを考えれば侮れる相手でもない。しっかりとモチベーションを高めていくべき相手,というだけだろう。
 そんな見方をしていたのですが,実際には昨季日本選手権とまったくの同一カード,そして昨季にあってはセコベ・レアウェレによる局面打開がなければゲームの流れを決定的に引き寄せることはできなかった,という「経験」が邪魔をしたのかな,と。


 サンスポの記事で紹介されている

 早大対策を考えすぎて、うまくいかない部分もあった」

という難波選手のコメントは,必要以上に相手の出方を探り過ぎることで自分たちのストロング・ポイントをすっかり忘れ去ってしまったかのようなヴェルブリッツの戦いぶりを端的に示すものだと思うし,うまくいかない,という意識がさらなる焦りを生むことで一時退場にまで追い込まれたのかな,と感じます。
 カップ戦にあっては,相手の高いモチベーションを「受けて立つ」という意識でも問題を抱えることになるが,相手がどう出て来るか,ということだけに意識が向くのも同様に自分たちのスタイルを見失わせる要因となる。ヴェルブリッツ秩父宮で見せてしまったものは,フットボールであろうとラグビーフットボールであろうと変わらないものだったように思います。


 対する早稲田でありますが,彼らのアプローチはやはり,「大学」という枠を飛び越えたものであるように思えます。


 スポニチの記事を読んでいきますと,最初から目標は大学(対抗戦Aグループや大学選手権)レベルにはなく,昨季つかんだ手応えを本物とする,つまり,過去においては互角の勝負を挑めていたトップレベルのクラブチームに対して再び勝負を挑み,結果を叩き出すことにあったのだ,という分かりきったことを再確認させられます。
 綿密な対戦相手へのスカウティングと並行して,社会人と互角以上の勝負を挑むことを前提としたトレーニング・マッチの設定。東芝府中Bチームやセコムなどとの練習試合を通じて,自分たちのストロング・ポイントがどこにあり,逆にトップレベルのチームに決して見せてはならない弱点をトレーニング・マッチの段階で徹底的に洗い出しておく。こういうアプローチは間違いなく,クラブチームが行っているものと同一だと考えていい。


 徹底した準備と,「トップレベルのクラブチーム相手に互角以上に勝負できることを示す」という高いモチベーションが重なり合えば,大学であっても互角以上に戦えるし,相手に主導権を決定的に譲り渡すことはない。そんなことを示していたように思うのです。


 そして,清宮監督の

 「90年代、社会人ラグビーはヒト、モノ、カネをそろえて右肩上がりに成長したが、学生は同じだった。その差を縮めてきた5年間だと思う。やるだけやったことが、しっかり返ってきた」

というコメントは,早稲田が何を目標としてきたのか,そして最終目標をどこに据えているのか,明確に示すものであろうと思います。


 そう考えていくと,ヴェルブリッツに対する勝利はひとつの足掛かりだろう,と感じます。恐らく,彼らの目標はトップリーグマイクロソフトカップを制した東芝府中ブレイブルーパスに置かれているのではないか。過去,日本選手権は大学覇者と社会人チャンプが真正面からぶつかり合う一発勝負のゲームでした。その再来を心から望んできたのではないか,と思うのです。
 舞台は準決勝ではあるけれど,過去においては実現していた大学覇者と社会人チャンプとの対決。早稲田は自分たちの真価を準決勝の舞台で示したい,と思っているはず。久しぶりに日本選手権,という響きに忠実なゲームになるな,と感じています。