第43回ラグビー日本選手権(2回戦)。

昨季日本選手権とまったく同じカップ・タイ。


 単なるトーナメント・ドローの問題ではあるのだけれど,マイクロソフトカップサントリー・サンゴリアスが制していれば,間違いなく成立しなかったカードでもある。いかに偶然とは言え,あまりに出来過ぎている偶然だな,と感じずにはいられない。


 やはり,日本選手権2回戦注目のカードは,“トヨタ自動車ヴェルブリッツ早稲田大学戦”にならざるを得ないだろう,と感じていました。そして,早稲田がどれだけトップリーグ勢に対して勝負権を持ち得るか,が最大の興味だったわけですが,予想を上回るパフォーマンスを発揮してくれた,という印象があります。いつものようにゲームを通して印象に残った部分を書いていきますと。


 最も印象深かったのは,攻撃リズムがすごくフレキシブルだったことでしょうか。


 大きくフィールドを使ってボールを展開させているときには,相手ディフェンスに捕まってから再びボールを出すまでの時間がかなり短く,攻撃に勢いとリズムを感じました。
 ポイントに必ずSHが顔を出し,ボールをしっかりとコントロールしながら展開するタイミングをはかる。スピーディに展開するタイミングか,それとも十分に相手ディフェンスをポイントに釘付けにしてから展開していくか。その見極めがかなりしっかりしていたように感じます。


 また,BK陣の視野の広さと出足の鋭さもかなり印象に残りました。
 もちろん,成功例ばかりではなく,スロー・フォワードを取られるプレーもありましたが,可能な限りフラットな状態でパスを展開する,という攻撃意図が浸透していることを感じさせるものがありました。また,相手ディフェンス・ラインのギャップ,プレッシャーのかかり方を見極め,誰にパスを通すか瞬時に判断できるだけの視野の広さもある。そんな早稲田のパス・ワークを支える要素が,得点につながったのかな,と感じるところがあります。
 ヴェルブリッツが敷いていたディフェンス・ラインに生まれたギャップを見逃すことなく,フェイク・モーションを入れながら縦に鋭く突破をかけ,トライを挙げる。また,相手の攻撃に対して速いプレッシャーを掛けている。そのなかからインターセプトに成功し,トライにつなげる。「縦」への意識はトップリーグ勢を相手にしても徹底されていたように感じます。


 一方で,FWのパワーを活かした勝負にもかなりの強みを発揮していたように思います。


 前半の得点場面ですが,ヴェルブリッツ陣内5mライン付近からモールを積極的にドライブしながら相手ディフェンスの弱点を冷静に突く。モールを時計回りに回転させながらジワジワと間合いを詰めるかのようにボールをゴール・エリアに近付け,ボールを冷静にグラウンディングさせる。早稲田のストロング・ポイントとしてFWのパワーをイメージすることはあまりなかったのですが,今日のゲームを見ていて,その認識を大きく改める必要を感じました。


 ・・・秩父宮の雰囲気を見る限り,早稲田大学のホームゲーム,と表現しても良いように思いましたね。そして,その雰囲気が与えた影響も大きかったのではないか,と感じます。
 特に,後半ロスタイムに展開された激しい攻防劇に対する観客の反応は凄まじいものがあったな,と。ゲーム終了後,チームを率いる清宮監督もコメントを残していましたが,どこかで秩父宮に足を運んでいたひとたちが早稲田の出足をちょっとだけ鋭くしていたのかな,と思うところがあります。
 そんな雰囲気のなか,ヴェルブリッツはやりづらさを感じたか,とは思います。ラグビーフットボールでは明確なアウェイ・マッチに出会うことは少ないけれど,今回は間違いなくアウェイ・マッチだっただろう,と。


 しかし,モールをドライブされるなど早稲田の後手に回ったことは確かだろうとも思います。学生相手であろうとも,ノックダウン・スタイルのトーナメントである以上常に先手を取り続けることで相手に心理的な余裕を作らせない,ということが重要だったはず。
 そんな部分を考えると,ヴェルブリッツは間違いなく今日のゲームに早稲田の高いモチベーションを受け止めるところから入ってしまったように思います。昨季,同じように「受けてしまったこと」で苦戦を強いられた相手であり,最もやってはいけないことをやってしまったのではないか,と思います。
 決して攻撃に鋭さがなかったわけではない。むしろ,大きく地域を回復する中から縦への突破を成功させ,トライを挙げているところから見ても持てるポテンシャルは低くはない。しかし,ラインアウトを完全に相手にコントロールされてしまうなど,緻密なスカウティングによってリズムをつかむきっかけを潰されていたように思えるのです。そして,リズムをつかめない焦りが,さらにゲームの流れを悪くする。そのネガティブ・スパイラルから抜け出せなかったのかな,と。
 昨季ならば跳ね返せたものが,今季では跳ね返せずに終わる。その差はテクニックやスキル,フィジカルではなく,メンタルがもたらした部分もあるのではないか。そんなことを感じました。


 と,これで終わってしまうと,もうひとつのゲームに対して失礼にあたりますので,ちょっと書いておくことにしますと。


 では,第1試合の“NECグリーンロケッツコカ・コーラウェストジャパン戦”についてもちょっとだけ。


 カップ・ホルダーであるNECグリーンロケッツに対してコカコーラWJが挑戦する,という基本図式になるだろう,という予測を立てていましたが,実際にもそんな感じがしましたし,NECが本来の実力をしっかりとコカコーラWJ相手に発揮した,という見方ができるか,と思います。


 恐らく,フットボールと同様に早い段階で先取点を奪取する,というのがカップ戦の定石であるように思います。常に先手を打つことによって,心理的に優位に立つ。その意味で,前半立ち上がりの段階でトライを奪った,というのはNECにとって大きかったのではないか,と。
 対して,前半におけるコカコーラWJの戦い方は決してNECグリーンロケッツに主導権を掌握されたまま,というわけでもなかったように思います。確かにトライ数は少なかったものの,後半の立ち上がり次第ではNECに対してプレッシャーを十分に掛けられる展開であったといえます。そして,後半開始直後にトライを奪取,コンバージョン・ゴールをも成功させ,一時的に2点差にまで差を詰めていくことに成功します。


 しかし,NECはここから本来のポテンシャルを発揮し,コカコーラWJの攻撃リズムを断ち切りにかかります。ペナルティ・ゴールを決めたことを嚆矢としてゲームの主導権をしっかりと取り戻し,そこから6トライ(5コンバージョン)を叩き出し,完全に主導権を掌握することに成功します。
 結果,NECグリーンロケッツ近鉄花園で行われる三洋電機ワイルドナイツとの準決勝に駒を進めることになりました。


 ・・・掛け値なしに,どちらのゲームも面白いカードになったな,と思います。


 秩父宮開催分に関しては,言うまでもなく早稲田大学が2冠覇者である東芝府中ブレイブルーパスに対してどういう攻撃を仕掛けることができるのか,そして,今回のゲームのようにどれだけ緻密なスカウティングを実施し,相手の攻撃を効果的に封じられるのか,という部分が見所かな,と思います。
 近鉄花園のカードでは,カップ戦巧者であるグリーンロケッツがリーグ戦2位であるワイルドナイツに対してどういう攻め方をしてくるか。また,ワイルドナイツにあっては,早い段階で敗退してしまったマイクロソフトカップからどのようにチームを立て直し,コンディションを上げていけるか,が注目ポイントかな,と。
 物理的に両方を実際に見に行くことは不可能,ですが,ホントは両方をライブで見たいな,と思ったりしますね。