第43回ラグビー日本選手権(1回戦)。

全参加チームが1回戦から戦うのではなく,所属リーグなどによって初戦の段階が大きく異なる変則トーナメントという部分を考えると,「予備予選(プレ・クオリファイ)」のような色彩を持っているようにも思えますが,それゆえに大学ラグビーの実力的位置付けがハッキリと見えてきたようにも感じます。


 では,1回戦を書いていこうか,と思います。


 まず,第1ゲームは大学選手権準優勝校である関東学院大学がトップチャレンジ1で首位に立ち2006〜07シーズンからのトップリーグ昇格を決定したコカコーラ・ウェスト・ジャパン(WJ)との対戦であります。


 マッチ・スタッツ(JRFUオフィシャル)を見ると,ファイナル・スコアは典型的なロー・スコアのカップ戦に相応しいものです。しかも,前半はスコアレスで折り返しているけれど,実際には関東学院がPGのチャンスを獲得するものの失敗に終わっているために,リズムはどちらかと言えば関東学院に傾きかけていたように感じるし,後半においてもコカコーラWJは一時退場者を出すなど,関東学院のプレーに焦りを生じていただろうことが見て取れる。


 結果的にいわゆる「アップセット」は起きず,TL参入を決めたコカコーラWJが2回戦進出を決めたわけですが,少なくとも大学ラグビーのレベルが低下している,というわけではないことがこのゲームで示せたのではないか,と感じています。


 大学は練習環境などのハードに関してはTL勢に引けを取るものではない(むしろ,充実している)と思いますが,コーチング・スタッフの充実度やどのようなチームを構築していくのか,というチームの根幹に関わる設計図などのソフトウェアに関して大きくTL勢に引き離された部分があったように感じています。この部分の改革にいち早く着手した早稲田は大学レベルを大きく超えるチームへと変貌を遂げましたが,ライバルと目される関東学院もただ早稲田の躍進を座視していたわけではない。数年前は大学ラグビー界を牽引していた存在として,早稲田の独走を許すわけにはいかない。そんな矜持があったのかな,と。
 残念ながら日本選手権では2回戦へと駒を進めることはできませんでしたが,カップ戦では最も重要な要素となる安定したディフェンス,という面では前半コカコーラWJをスコアレスに抑え込むなど,一定の存在感を示すことはできた。このことは,評価して良いように思います。


 続けてもうひとつの大学勢(というか,ほぼTL勢のような陣容を持っているクラブチームというか)のゲームを書いていきますと。

 マッチ・スタッツ(JRFUオフィシャル)をまず見てみますに。
 「やっぱりヤツらはトップリーグでやりたいんじゃあねェのか!?」と本気で思うようなファイナル・スコアであります。多分,JRFUが承認しさえすればトップリーグでもかなり安定した成績を収める可能性だって否定はできない。
 ついでに言ってしまえば,昨季日本選手権でトヨタ自動車ヴェルブリッツをかなりの時間帯苦しめ続けている,というイメージは相当ポジティブなものとして早稲田に残っているだろうと思うし,今季も同じようにトップリーグ上位チームとの対戦において自分たちの実力を存分に知らしめたい,というモチベーションが相当高いだろうことは容易に想像できるところであります。


 対するタマリバクラブ(全国クラブ大会優勝クラブ)の戦い方は明らかに“ワンチャンス”を狙いに行ったカップ戦的なアプローチだっただろうと思います。前半,早稲田の攻撃を1トライ1コンバージョンに抑え込んだところから見ても,ディフェンスに相当な部分を割いたのだろうと思いますし,後半立ち上がりでイーブンに持ち込んでいることからも途中まではある意味,ゲームプランに沿った戦い方ができていた,という見方ができるのかも知れません。


 しかし,主導権を相手に握られたままディフェンスに忙殺される,というのは相当な消耗をもたらすはずです。
 同点に追い付かれた後,明らかに攻撃のリズムを速め,ラッシュをかけてきた早稲田に対して流れを押し止めることができなかったのは,自らが積極的に仕掛ける形でディフェンスをすることができず,相手の攻撃に対して引きずられるような形でディフェンスを続けてきた代償のような部分があるのかな,と感じます。
 それ以上に,やはり最近の早稲田はトップリーグ勢のような選手層の厚さを感じずにはいられないし,チームとしてやりたいことが明確になっているな,という印象が強いですね。五郎丸選手の負傷によってチャンスを得た高橋銀太郎選手(FB)がキッカーとして良い仕事をしてくれている。主力が欠けようと,その穴を十分以上に埋めていけるバックアッパーがいる,というのは間違いなく大学ラグビーという枠を超えた「規格外」のチームだな,という感じであります。


 ・・・予備予選,じゃあなかった1回戦を突破したのはコカ・コーラウェストジャパンと早稲田大学であります。


 トーナメント表を見ると,現状では“トップリーグ上位”との表記しかありませんが,早稲田にあってはどれだけ自分たちのラグビーが上位勢に通用するかを試したいところでしょうし,コカコーラWJにとっては実力差を実戦で図れる貴重な機会として重要なゲームと見ているはず。
 12日の秩父宮は「一粒で二度美味しい」を地で行くのではないかな,と感じます。